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──ほとんど密航者。

佐藤 そうなんです。トラックの車載台の間に隠れてシートをかぶり、幹線道路でこっそり降りて。今度は空港行きバスに乗りたいんですが、バス停で待っても一向に来ない。

©文藝春秋

 結局バスが来たのは、時刻表の3時間後。それでも飛行機には間に合うと思いきや、今度はその首都行き長距離バスがパンクしたり、デコボコ道でスピードを落としたり。

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──またピンチに。

佐藤 僕も焦って、運転手に「出国できなくなる、急いでくれ!」と、英語で必死に言ったんです。でも運転手は「サバ、サバ」としか返事しない。

「この暗い中で見捨てるのか! おい、この野郎!」

──サバ?

佐藤 マリは公用語がフランス語なんですよ。フランス語で「ça va(サバ)」は大丈夫の意味と知ったのは、あとになってから。僕は運転手が何を言ってるかわからないから、内心「このサバ野郎め……」と思ってました。

 だって、出国まで残り2時間を切ってるのに、外は夜で何も見えない。何度もしつこく運転手に文句を言ったら、10数分後に呼ばれてバスから降ろされたんです。

──ひどい。

佐藤 僕は泣きながら、もう日本語ですよ。「この暗い中で見捨てるのか! おい、この野郎!」と怒鳴って降りたら、そこになんとタクシーがいた。バスの運転手が呼んでくれていたんです。

──意外な展開です。

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佐藤 バスの運転手が「サバ、サバ」と言ってたのは、「俺がタクシーを呼んでやったから、まぁ落ち着け」という意味だったんだと思います。それで僕はタクシーで空港に着き、飛行機に間に合ったんです。

 そんなわけで、マリの旅は強烈でしたね。僕もガイドブックを持たず、「現地でなんとかなるだろう」と見切り発車で行ったのがまずかった。今だから笑って話せますけど、途中からはずっと泣いていた旅で、忘れられないです。

──大変な思いをされましたね。

佐藤 もうひとつ危なかったといえば、イランで逮捕されかけたこともありました。1997年なのでだいぶ前ですが、こっちのほうがマリよりヤバかったかもしれない。