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ノルマンディー上陸作戦から80年。「史上最大の作戦」は経営戦略の教科書だ

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 今年は、史上最も有名な「Dデイ(作戦開始日を示す米軍用語)」として知られる1944年6月6日の「ノルマンディー上陸作戦」から80年。この作戦は、第二次大戦を終結に導いた軍事的に極めて重要な作戦だった。しかし、80年前のこの作戦は、単なる「過去の軍事的イベント」に留まらない。

〈この大規模作戦は、近年、「経営戦略」の観点からも注目され、研究されている。「組織の在り方」「適材適所の人事」「ロジスティクスの重要性」「困難な課題の克服」……など、多岐にわたって事前に緻密に組み上げられ、さらに計画の実行においては「想定外の事態への対処」も迫られた「大事業計画」だったからだ。現代の我々にも多くの教訓を与えてくれている〉

 こう語るのは、陸上自衛隊で、陸上幕僚副長、中部方面総監などの要職を歴任した元陸将の山下裕貴氏だ。

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ユタ海岸に上陸した米軍 ©Collection Roger-Viollet

「意見の不一致」が致命的失敗を招く

 山下氏によれば、首脳部内の「意思疎通」や「信頼関係」が、連合軍とドイツ軍の運命を分けた大きな一因となった。

 米英を中心とする連合軍は、最高司令官アイゼンハワーの下、結束が固かった。

アイゼンハワー ©GRANGER/時事通信フォト

〈アイゼンハワーは、「司令官と参謀長との関係は人と人のつながりであって、私とスミスの関係は完璧に近く、この作戦の成否はこのコンビにある」としてスミス中将を要望したといわれている。

 アイゼンハワーは、スミスを評して「問題の大綱をつかむとともに、あらゆる細部にも通じていた。強い性格、鋭いカンを持ち、調和をもたらす」といって〉いた。

〈ルーズベルト大統領は、アイゼンハワーを最高司令官に任命した後に、こう述べている。

「数百万という大軍を指揮するためには、調和と責任の明確化が必要である。名誉心や権威主義は不要である。指揮官として、幕僚として一つのチームを作らなければならない。そして全責任は最高司令官が負うべきである」〉