バリウム検査は小さな病変が判別しにくい
前述のように、1960年代から現在まで胃がん検診といえば、バリウム検査だ。
検査を受ける人は前夜から絶食して、胃を空っぽにした状態にする。そして造影剤の硫酸バリウム溶液と一緒に、発泡剤を飲む。胃を風船のように膨らませるためだ。可変式の検査台に乗ると、アトラクションのように、前後左右、様々な角度に傾けられる。これにより、バリウムを胃の内壁にくまなく行き渡らせる。
そして、放射線技師が、胃を様々な角度からX線で撮影していく。すると、バリウムによって胃のシルエット(陰影)が、浮かび上がる。その画像は白黒の影絵のようだ。
後日、このX線画像を医師らが、「読影」して、がんを見つける。ただし影絵なので、小さな病変は判別が難しい。この点が、バリウム検査の隠れたリスクのひとつなのだ。
そもそも、胃の断面は、内側から「粘膜層」、「粘膜下層」、「固有筋層」、「漿膜(しょうまく)下層」、「漿膜」と重なっており、がんが進行すると外側に広がっていく。早期がんに分類されるのは、がんが内側から2段目の「粘膜下層」に達した状態(T1b)までを指す。バリウム検査でもT1bの胃がんを発見できるが、治療としては、外科手術で胃を切除することになり、治るとしても、その後の食生活などに大きな影響が出ることは避けられない。
検査によって治療後のQOLが左右される
一方、内視鏡では「粘膜層」で留まっている状態(T1a)で発見可能だ。その場合、胃を切除せずに、がんを粘膜ごと剥がす治療(ESD)をするだけで済む。同じ「早期胃がん」でも、治療後のQOL(生活の質)は大きく違うのだ。
東大医科学研究所附属病院などで、外科医として胃がん治療にあたってきた、水野靖大医師(マールクリニック横須賀・院長)はこう解説する。
「バリウム検査は、胃壁の大まかな変化を影絵のように診断するので、粘膜だけの僅かな変化までは捉えることはできません。一方、内視鏡検査は、粘膜の僅かな変化はもちろん、色調の変化も捉えることが可能なので、超・早期のがんを発見することができるのです。また、内視鏡検査では、がんの疑いがある部分の粘膜を採取して、病理検査で確認することも可能ですから、『過剰診断』は気にする必要がありません」