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高難度の手術は「ハイボリュームセンター」で受けよう――肝胆膵がん手術の現在

2018/08/30
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膵がんは発見時に進行していることが多いため、要注意

 肝がんの次に罹患者数が多いのが膵がんだ。前出の予測によると、罹患者数は4万人と肝がんに次ぐ7位だが、死亡者数は3万3700人と4位。実は肝がんより多いのだ。しかも、罹患者数と死亡者数に差があまりない。つまり、この数字は非常に治りにくいがん(難治がん)であることを示している。

 実際、膵がんは発見時には進行していることが多く、診断から数か月で亡くなる人も多い。それだけに、膵がんも注意が必要だ。とくにリスクの高いのが「慢性膵炎」の人だ。この病気も多量の飲酒によって引き起こされることが多い。肝がん、膵がんのいずれにも悪い影響を及ぼすだけに、くれぐれもアルコールの飲み過ぎには注意してほしい。

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 胆道がん(胆管がん、胆のうがん)も意外と多い病気だ。前出の予測によると罹患者数は2万6500人で11位だが、死亡者数は1万9000人と肝がんに次ぐ6位となっている。この数字は実は、乳がん死亡数(1万4000人)より多い。

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 原因はよくわかっていないが、胆石になったことのある人でリスクが高いことを示す研究結果がある。したがって、胆石になりやすい人は要注意だ。また、上腹部痛や食欲不振、全身のだるさ、黄疸などの症状がある人は胆道系の病気が疑われるので、早めに病院に行ったほうがいいだろう。

消化器がんの中でも、高い技術が必要とされる肝胆膵がん

 これら「肝胆膵がん」の手術をするのが、「肝胆膵外科医」だ。実は肝胆膵がんの手術は、消化器がんの中でも高い技術が必要とされている。たとえば、かつて肝臓の手術は「出血との闘い」と言われた。肝臓には血管が張り巡らされており、血を多く含むスポンジのようになっているからだ。現在では、出血を少なくする方法や止血しながら切除できる電気メスなどの手術器具が進歩したおかげで、出血量は格段に減った。とはいえ、出血に注意が必要なことは変わりない。

 また、肝臓は大きく切り過ぎると、肝機能が低下しすぎて、肝不全という重大な合併症を引き起こす危険性がある。これを防ぐためには、術前に肝機能をしっかり評価して、どれぐらいなら切除していいかを見極める必要がある。また、肝臓の予備能力が少ない場合には、術前に切除する側の肝臓の血管を詰めて小さくし、残す側の肝臓を肥大化させておく方法もある。

 しかし、肝臓手術の死亡事例では、術前の肝機能の評価が十分でなかったと指摘されているケースもある。したがって、肝がんの手術を受ける場合には、術前に肝機能の検査を受けて、どれぐらいの予備能力があるかを患者側も知っておいたほうがいいだろう。

 膵臓も切除する場合には注意が必要な臓器だ。血糖値を調節するホルモン「インスリン」のほかに、「膵液」という消化酵素を分泌する臓器だからだ。膵管が十二指腸とつながる膵頭部を切除した場合、切除した断面を小腸とあらためて縫合する必要がある。しかし、この縫合が不十分だと膵液が漏れ出してしまうことがある。これが「膵液漏」だ。

 膵液は非常に強力な消化液で、これがお腹の中に漏れると周囲の組織を溶かして腹膜炎を起こしたり、血管を傷めて出血したりすることがある。これについても、漏れた膵液をドレーン(管)で体外に排出する処置で事なきを得ることが多いが、場合によっては重篤な状態になり、まれに死亡するケースもある。