高難度の手術は「ハイボリュームセンター」で
こういった命に関わる合併症が起こり得ることから、肝胆膵手術を受ける施設を選ぶ場合にはとくに、安全性に十分注意する必要があると言えるだろう。
とくに、肝臓を大きく切り取り、血管や胆道をつなぎ直す必要のある肝門部胆管がんや、膵臓、十二指腸と胃の一部、胆のう、周囲のリンパ節など広範囲に切除が必要な膵がんなど、高難度の手術を受ける場合には、これらの手術経験が豊富な「ハイボリュームセンター」で手術を受けたほうがいい。
肝胆膵がんの手術の多くは開腹で行われているが、一部には腹腔鏡手術も採用されている。これまで、この領域で保険適用となっていたのは、比較的安全に行える肝臓の部分切除および外側区域切除、や膵体尾部切除術などだけだったが、2016年4月からは肝切除術全般と膵頭十二指腸切除術(膵がんの手術)にも保険適用となった。
だが、肝胆膵がんの腹腔鏡手術に関しては、大腸がんや胃がんと異なり、適応を慎重にすべきと話す肝胆膵外科医が少なくない。実際、序章でも述べた通り、群馬大学病院や千葉県がんセンターでは、肝胆膵がんの腹腔鏡手術で多数の死亡事例を出していたことが発覚している。
したがって、肝胆膵がんで医師から腹腔鏡手術をすすめられた場合には、セカンドオピニオンを聞いたうえで、根治性や安全性についても十分納得してから選択するべきだろう。腹腔鏡手術に警鐘を鳴らす梛野(なぎの)正人医師のインタビュー(http://bunshun.jp/articles/-/6616)もぜひ読んでほしい。
なお、早期の肝がん(初発の原発性肝細胞がん)が発見された場合には、手術以外に「ラジオ波焼灼術」という治療法もある。これは専用の長い針を、超音波画像を見ながら腫瘍に到達させ、その先端から電磁波を出して腫瘍を焼く治療法だ。主に外科医ではなく消化器内科医が手がけている。
治療ガイドラインでは「腫瘍3センチ3個以内」の場合に、ラジオ波焼灼術が適応できる。だが、肝がん患者は肝硬変が進んで肝機能が悪く、手術できないことも多いので、3センチを超える大きさや、4個以上の腫瘍がある場合にも、ラジオ波が行われることがある。
手術とラジオ波を比較する臨床試験が実施されているが、まだ結論は出ていない。「できるなら手術したほうが、根治性は高い」と主張する外科医も少なくないので、肝がんの患者はどちらの治療法が自分にあっているか、肝臓専門の消化器内科医と肝臓外科医、双方の意見を聞くことも大事だ。
出典:文春ムック「有力医師が推薦する がん手術の名医107人」(2016年8月18日発売)