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凌辱魔人と囚われの女性ジャーナリストの対決は…55年前のイタリア映画が今でも古びてみえないワケ<日本初公開>

映画『男女残酷物語/サソリ決戦』

2024/06/09

source : 週刊文春CINEMA 2024夏号

genre : エンタメ, 映画

note

 半世紀を経て、はじめて姿をあらわした、ピエロ・スキヴァザッパ監督の『男女残酷物語/サソリ決戦』は、当時のフェミニズムに対する男の側のスーパー・マゾヒズムな回答である、面白れぇ。

アンチ・フェミニズムを語り、美体を誇示する男だったが…

 女性が失神させられ気がつけば監禁、とくればふつうにその先に待つのは、隷属させるためのさまざまな調教(特にメソッドと化した性的な)といっていいが、このイタリア映画もそこは裏切らない。

 囚われた女(ダグマー・ラッサンダー)の硬質な裸体、ほどよい小ぶりな乳房があなたのゲスな期待を裏切らない。部屋に組まれた格子とやわらかな女体の曲線の対比。なぜ、わたしなの? だれにも言わないからおうちに帰して、どうか殺さないで、女は泣く。

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サソリは交尾の際、絶頂に達する瞬間にメスがオスを食べる。劇中では、幼少期のセイヤーがサソリの交尾を見て以来、女性に対するおそれの象徴として脳裏に焼き付き、メアリーを「大きくて貪欲で邪悪なメスのサソリだ」と表現している ©1969 – Cemo Film (Italia) - Surf Film All Rights Reserved -

 しかし、映画はゆっくりと原題Femina Ridens(英語タイトルThe Laughing Woman)の意味を明かしていく。

 最初、アンチ・フェミニズム、女性憎悪の思想を声高に繰り返し語り、全身筋肉といっていい美体を誇示していた男(フイリップ・ルロワ)にとって、女の調教がじつは相互的以上にせつない試みとわかってくる。

©1969 – Cemo Film (Italia) - Surf Film All Rights Reserved -

 美女惨殺写真とかの脅迫的素材は、興奮のための趣味的フェイクであった。頃合いを見計らって、焦らしながら女が、〈ある絶頂〉を逆提案する。

意識が肉体にむかう無駄のない空間

 この映画が古びてみえない理由に、2人だけの調教空間が、デザインのモダーンによって、ジム施設のように無駄がないことがあげられる。意識が肉体にむかう。