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2『チワワ・シンドローム』 大前粟生 著

チワワ・シンドローム

チワワは「生きづらい」と感じる人たちの「弱さ」の象徴

「とかくに人の世は住みにくい」と記したのは夏目漱石ですが、それから120年近く経った令和の世にあっても、住みにくい、生きづらい、と感じる人は多いようです。さらにSNSの普及によって人々の「生きづらさ」は可視化され、広く拡散されるようになっています。リアルの人間関係のみならず、ネットを介した匿名の、むき出しの感情のぶつかりあいが避けられない今、人の心は常に、傷つくリスクにさらされています。

 大前粟生さんの『チワワ・シンドローム』は、「生きづらい」と感じる若者たちの「弱さ」をテーマにした、オリジナリティあふれる長編小説です。

 自己評価があまり高くない主人公の琴美は、80万人いるフォロワーの心情に全面的に寄り添う「全肯定インフルエンサー」で親友でもあるミアから「いつまでも、弱くて可愛いままでいてね」と言われ、居心地の良さを感じています。そんな日常が、思いを寄せる男性の失踪と、失踪直前に起きた「チワワテロ」(知らないうちにチワワのピンバッジが服などに付けられてしまう事件。失踪した男性を含む800人に付けられていた)によって大きく動いていきます。

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前代未聞のチワワテロの真相は? 「ずしんと心に残る傑作」 

 琴美はミアとともに男性の行方を追いかけながら、チワワテロの謎へと迫っていきます。チワワフェス監禁事件、“傷の会”を名乗る集団の策謀など事態がめまぐるしく動いていく中で、現実社会へと侵食していく「チワワテロ」の影響。首謀者は誰なのか、そしていったい、何の目的でこんなことを行ったのかーー。

 芥川賞作家の高瀬隼子さんが「待って、こわいこわいこわい。現代の弱肉強食を眼前に突き付けられた気分」と評し、『明け方の若者たち』で知られる作家のカツセマサヒコさんも「みんなの心の中、そんなに照らさないでください。ずしんと心に残る傑作です」と絶賛した作品です。

 物語を通じて、琴美の心は徐々に変容していきます。それはミアとの関係も変わっていく、ということ。これまでに味わったことのない読後感が押し寄せる、驚愕のラストに注目です。