千年の時を超えて読み継がれる『源氏物語』を書いた紫式部。その波乱に満ちた人生を描く大河ドラマ『光る君へ』が好調だ。平安時代後期の摂関政治最盛期を舞台に、まひろ=のちの紫式部(吉高由里子、以下カッコ内は役を演じる俳優名)と栄華を極めた藤原道長(柄本佑)の特別な関係を軸に動いていくストーリーは、貴族たちの権力争いと男女関係の綾が複雑に絡み合い、実に魅力的。

 今回は、この『光る君へ』をもっと楽しむためのおすすめ本を「本の話」編集部が5作ピックアップ。新書、小説、発掘本と多彩なラインナップが揃った。

1 『紫式部と男たち』木村朗子(文春新書)

紫式部と男たち

 津田塾大学教授である著者は、平安時代に女性が書いた宮廷物語を通して当時の社会を読み解く研究者。本書は『源氏物語」はもちろん、『紫式部日記』や『和泉式部日記、』女性の描く宮廷物語の嚆矢となった藤原道綱母(財前直見)の『蜻蛉日記』などを参照し、〈権力とセクシュアリティ〉の観点から、権力の在り方と当時を生きた女性たちの実情に迫っている。

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 日記に収められた折々の和歌を引用しながら、男たちの政治のかたちを浮き彫りにしていくという、読んでいて楽しい構成だ。

 摂関政治とは性を治める「性治」である

 もともと平安時代の宮廷は、菅原道真がそうであったように、漢籍に詳しい学者筋の貴族たちが天皇の補佐役・相談役を務めることで政治を動かしていく構造だった。それが藤原家によって別の形に変容していった、という歴史がある。

「藤原氏はもっぱら天皇家と姻戚関係を結ぶことでのし上がってきたのである」

「藤原氏の政権とは学問の叡智に頼らず、性愛によって天皇をとりこめていく政治体制であり、それがとりもなおさず摂関政治の内実なのである」(同書より)

 そこには、天皇や貴族たちが一夫多妻婚をしていたことが大きな意味を持ってくる。秘めたラブストーリーとドロドロの権力争いが見どころの『光る君へ』のストーリーをより深く理解するために必要な、平安貴族社会の仕組み、また当時を生きた貴族たちや女性の心持ちを理解するにはうってつけの一冊となっている。