2 増補版『藤原道長の権力と欲望 紫式部の時代』倉本一宏(文春新書)
『源氏物語』は世界でも「世界で最も早く書かれた本格小説作品」として広く知られているが、実は道長が書いた日記『御堂関白記』も世界的に評価が高く、2013年にはユネスコの記憶遺産に登録されている。イギリスの「マグナ・カルタ(大憲章)」やベートーヴェンの『第九』、アンネ・フランクの『アンネの日記』と同様に、道長の日記も、世界が記憶すべき貴重な文化遺産、と位置づけられているのだ。
本書はこの『御堂関白記』と、道長の側近として長く仕えた藤原行成(渡辺大知)の『権記』、そして藤原実資(秋山竜次)の『小右記』という、当時の男性貴族が書き残した日記をもとに、平安時代と藤原道長の栄達の道のりをわかりやすく、詳しく紹介している。
著者は『光る君へ』の時代考証を担当
これまで放送された『光る君へ』のストーリーを振り返ってもわかるように、道長ははじめから貴族社会の主役ではなかった。父・藤原兼家(段田安則)は摂政としてこの世の春を謳歌したが、道長には藤原道隆(井浦新)、藤原道兼(玉置玲央)と2人の兄がいて、政治トップの座につく可能性は限りなく低かった。それが新天皇即位などがきっかけとなり、姉・詮子(吉田羊)の後ろ盾もあって権力構造のピラミッドを駆け上がっていく。道隆や道隆の子息でライバルとなる藤原伊周(三浦翔平)や一条天皇(塩野瑛久)の後宮に入内した道隆の娘・定子(高畑充希)との関わりなど、これからのドラマの見どころとなる部分について、知っておくとよりドラマを楽しめる史実が記されている。
著者・倉本一宏さんは『光る君へ』の時代考証を1人で担当し(通常は3人ほどが担当することが多い)、大石静さんのドラマティックな脚本を史実の面からしっかりと支えている。本書はもともと2013年に刊行されたものだが、今回の大河ドラマを機に、補章「紫式部と『源氏物語』」を書き加えた完全版となっている。
なお、上記の新書2冊はそれぞれに、藤原道長と紫式部がいったいどんな関係にあったのか、光源氏のモデル論争と合わせて考察を加えている。研究者の中でも意見はさまざまなので、2冊を読み比べてみるのもオススメだ。