1ページ目から読む
3/5ページ目
3 『殴り合う貴族たち』繁田信一(文春学藝ライブラリー)
今回のドラマで意外と目につくのは、貴族たちの暴力シーン。貴族が突然女性を刺殺したり、従者たちが庶民に対して粗暴なふるまいをしたり、屋敷内で貴族同士の取っ組み合いの喧嘩をしていたり……。
これらはドラマならではの脚色という側面もあるにはあるが、実際当時の書物をひもとくと、当時の貴族たちはたいそう乱暴だったことがわかってくる。
本書は実資の『小右記』などの記載をもとに、素行の悪い貴族たちの行状を紹介しながら、平安貴族の雅だけではない「実像」に迫った一冊だ。
藤原伊周、花山法皇に向かって矢を射かける
たとえば、ドラマ第15話では道隆の息子伊周と道長の「弓争い」のシーンがあったが、伊周と隆家(竜星涼)の兄弟一行はのちに、花山法皇(本郷奏多)に向かって矢を射かけるという不祥事を起こしている。また、その愚行がもとで従者たちの乱闘となり、法皇の童子2️人が殺され、生首が持ち去られるという蛮行まで引き起こすのだ。そしてこの出来事(長徳の変)は、伊周と道長の権力争いに決定的な影響を及ぼすことになる。
その他、目次をひもとくと……
中関白藤原道隆の孫、宮中で蔵人と取っ組み合う
粟田関白藤原道兼の子息、従者を殴り殺す
宇治関白藤原頼通、桜の木をめぐって逆恨みで虐待する
法興院摂政藤原兼家の嫡流、平安京を破壊する
式部卿宮敦明親王、拉致した受領に暴行を加える
などなど、平安貴族の乱暴狼藉エピソードが多数紹介され、巻末にはなんと「王朝暴力事件年表」が収録されている。