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このような経営理念を、入社後のパートやアルバイトに、時給を払ってじっくりとレクチャーする。その姿を「格好いい!」と感激した諸沢さんが、バイトにハマっていくのに時間はかからなかった。

西牧さんもまた、諸沢さん同様に現場が大好きな社長だったが、彼女の“人として”優れている点に脱帽した。

「忙しい時に私も各店を巡回して、テーブルについてカレーを食べるんです。その時スタッフに『ああしたほうがいい、こうしたほうがいい』と指示を出していたんです。もちろんお客様目線での指導ですから、ちゃんと意味があります。でも猫の手も借りたいくらいの時間帯なので、スタッフにとってはたまったもんじゃないですよね(笑)。その点、諸沢は違う。カレーを食べたあと、自分のシフトじゃなくても制服を着用して、スタッフのヘルプに入っていたんです。そのとき悟りました。自分がこの先社長をやっていても会社に未来はない。彼女ならば今より強い会社にできると実感しました」(西牧さん)

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カレーをよそう手を震えさせたモンスターカスタマー

新人時代の諸沢さんは、西牧さんが店舗で会うと失敗をしてよく泣いていたそう。たとえば、

「お客様が食事を終わられたら、一旦お皿を下げるのですが、その時まだ残っていた飲み物も一緒に下げてしまって……。自分が情けなくておいおい泣いてしまいました」(諸沢さん)。

いくら接客現場が好きだと言っても、時にはモンスターカスタマーが店にやって来て、諸沢さんを怒鳴りつけることもある。彼女曰く「カレーをよそう手がしばらく震える」ほど、怖かったとか。

そんな頼りなげな諸沢さんへの印象が変わったのは、前述の接客コンテストだった。名物の「ココイチ本部主催接客コンテスト」とは、年に一回、全国各エリアの接客の猛者たちが集まり、舞台上で技を競うもの。プロの演者が客の役になり意地悪な質問や振る舞いをするが、それを当意即妙に返していくのだ。舞台に立つ先輩たちを憧れの眼差しで見つめる諸沢さん(当時バイトで入ったばかり)を見て、何気なく「来年は君も出場するよね?」と西牧さんが問いかけたところ、「はい、出ます!」と二つ返事で答えたそうだ。その躊躇のなさが西牧さんの胸を打つ。