しかし諸沢さんがすべてひとりで背負うことはないと西牧さんは断言する。
「今、諸沢が社長として何が足りないのかを考えたのです。足りないスキル、たとえば財務、人事、広報などは、その分野のスペシャリストが周囲で支えればいいのです。もちろん、社長として最低限の修業は必要ですが」
その修業の一環として、コーチを社外から招いて、さまざまな勉強会をしている。諸沢さんだけなく、幹部たちも参加して、言葉遣いから目標設定、諸沢さんが不得意な財務諸表の勉強なども含まれる。
「数字の勉強は、もう全然ダメで……泣きたくなるくらい」
と、店舗でキリッと立働く姿とは違って、この時ばかりは少し弱音を吐いた。
そこで西牧さんは会長兼共同代表として3年間両輪で会社を経営して行く予定だという。その間に、西牧さんが諸沢さんに社長業のすべてを伝授していくそうだ。
「3年後には私は代表権から外れて退職する予定でいます。その頃、今現在会社が抱えている借金も完済しているでしょう。無借金で諸沢に渡せるので、経営で大変な時期は過ぎているはず。今はいい人材も集まっているので、彼らのサポートを受けながら、彼女が最終決定を出していくことになります」
世間では「社長は孤独」というが、諸沢さんは常にアルバイトやパート、社員から学ぶ姿勢を貫いている。そして何かトラブルがあっても彼女ひとりで抱え込まなくてもいいかもしれない。イヤなことは寝たらすぐ忘れるし、モンスターカスタマーが来店したら「出禁にします!」ときっぱり。意外に図太い。
ワーカホリックの意味はわからないが、仕事の虫
当初泣き虫だった諸沢さんは、いまだに泣く。しかし涙の質が違う。
「スタッフが成長しているのを感じると泣いてしまうんです」というように、嬉し泣きが増えた。とにかくココイチで働くのが好き、仲間が好き。趣味=ココイチと言っていいくらい。ココイチ以外の唯一の趣味が、映画鑑賞。大好きな『グレイテスト・ショーマン』を観て、またそこでも泣いている。作品で描かれる人間模様が、ココイチでの仲間たちとの交流にオーバーラップするからだが、もはや泣くのも趣味のうちか。