日本でも2割が過剰診断?
過剰診断が多いということは、乳がん検診をすればするほど、命に関わらないがんを多く発見し、無駄な手術や放射線、薬物などの治療を受ける人が増えることを意味する。実際、筆者が取材した、乳がんの専門家の一人は、「日本でも10~20%は過剰診断があるかもしれない」と認めている。
そもそも、マンモグラフィー(乳房専用のX線装置)検診には放射線被曝のリスクや、がんでないのに「がんの疑いあり」とされて精神的ダメージを受ける「偽陽性」のリスク、乳房に針を刺されて痛い思いをする精密検査のリスクもある。とくに20代、30代には、検診に利益がないばかりか、被曝でがんを誘発するリスクが高いので、絶対にマンモ検診をすすめるべきではないのだ。
にもかかわらず、限定的な効果やリスクを伝えることなく、とにかく「乳がん検診を受けましょう」と呼びかける人があまりにも多すぎる。安易な検診のすすめは、罪作りになりうることをぜひ多くの人に知ってもらいたい。
欧米から乳がん検診の効果に疑問符がつく報告が相次いだことを受けて、2015年には日本乳癌学会でさえ、『乳癌診療ガイドライン』における50歳以上に対する乳がん検診の推奨グレードを「A」から「B」に格下げした。現在は40歳以上に推奨しているが、将来的には40代の推奨は見直すかもしれないとしているほどだ。
やみくもに受診率を上げることを目標にするのではなく、今後はがんリスクの高い人に絞って検診をすすめたり、症状がある人に早く受診を促したりする方向へ政策を見直すべきではないだろうか。
出典:文春ムック「有力医師が推薦する がん手術の名医107人」(2016年8月18日発売)