1967年(80分)/KADOKAWA/3080円(税込)

 今回は『ある殺し屋の鍵』を取り上げる。

 市川雷蔵が凄腕の殺し屋を演じたシリーズの二作目だが、前作の主人公が表で小料理屋を営む塩沢で、本作は日本舞踊の師匠の新田だったりと、両作に直接の繋がりはない。

 今度の新田の標的は、脱税を繰り返す悪徳金融業者の朝倉(内田朝雄)だ。新田はなんなく役目を果たすが、自身もまた口封じのために命を狙われる。窮地を脱した新田は、単身で巨悪に挑んでいく――。

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 こう書くと、なかなかにスリリングなプロットだ。だが、実際のところはかなり隙の多い展開になっている。悪党たちは簡単に口を割るし、警備も杜撰。そこまでピンチを感じさせることなく、新田は黒幕へと近づいてしまえるのだ。

 そして困ったことに、新田もまた脇が甘い。せしめた大金を駅のコインロッカーに隠しているのだが、その鍵をなぜかコートのポケットに雑に入れており、黒幕の北城(山形勲)を仕留める際にそれを床に落としてしまう。衆人環視の状況にもかかわらず人知れず北城を殺してのける鮮やかなテクニックを直前に見せつけただけに、落差に驚く。

 しかも、退散する途中で鍵を落としたことに気づいた新田は、よりにもよって事件現場に戻ってしまうのだ。そして、ここからがさらなる驚愕の展開。現場では既に警察の検証が行われていた。そこにノコノコ現れる新田。そんな新田も新田なら、警察も警察だ。新田が新聞記者と偽り、忘れ物があると伝えたところ、警察は疑いもせず簡単に現場に入れてしまうのだ。新田は無事に床から鍵を拾う。作業中の鑑識はなぜこんな重要な証拠を見逃していたのか――。

 といった具合に、全体的に構成は緩く、ご都合主義的だ。

 それでもなお、見応えあるハードボイルドになっている。

 BGMや抒情性をそぎ落とした、ソリッドに研ぎ澄まされた森一生監督の演出。敵との対峙を決意する際に新田が閉ざされた部屋で舞う場面や、暗闇に消えていくラストの新田のシルエットなど、さすが大映京都=宮川一夫カメラマンといえる、黒く引き締まったスタイリッシュな映像。

 そして、クールな殺気を放つ雷蔵をはじめ、謎の美女を演じる佐藤友美や、気弱に見えながらも最期に頑強さを見せる小悪党役の西村晃といった、魅力的なキャラクターを演じる名優たち――。

 現場サイドの創意が、構成の緩さをカバーしていた。

 隙のない名作はもちろんだが、こうしたどこかしらに大きな穴の開いた場合でも、キチンと一定レベルのエンターテインメントたらしめるところに、往時の日本映画の底力を感じ取ることができる。