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「出版業界に変革を起こす」目指すは令和版の菊池寛

――出版業界の未来を多方向から考えた結果の一つが、シェア型書店なんですね。

 そうです。最近、気持ち的に誰に一番近いかって考えてたんですが、菊池寛だと思います。感覚としては。一番気持ちが分かる作家、僕やと思います(笑)。

 菊池寛さんも書きながら芥川賞や直木賞、文藝春秋も作ったわけじゃないですか。多分、菊池寛さんの時も、当時の問題があって、どうにかしないとアカンとか、使命感とか、お人好しだったとか、色々な物が噛み合って、文春や芥川賞、直木賞は出来上がったと僕は思っていて。

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 自分で言うのもなんですが、経緯みたいなのは似てるような気がします。もっともっと突き詰めたら分からないですが。

©文藝春秋

――今村さんの使命感とは?

 せっかく自分がいるこの出版業界という世界を、「もっと広げたいの」が菊池寛さんだとしたら、「守りたい」のが僕かもしれない。隆盛の頃に菊池寛は現れて、衰退の頃に今村翔吾が出たって言われるようにしたい。将来、何かできてるかもしれないよ。「文藝夏冬」みたいなの作るわ(笑)。

――出版業界に変革を起こすため、様々な活動を精力的にされていますが、ご自身をそこまで突き動かす物は何なんでしょうか?

 なんやろね。……僕はもう決めたからかな。人生の主題というのは、何個も無理だなって分かったから、一個に絞る。この出版業界をどうにかする。全部を変えられるとか、大きなことは思ってないけど、ただ僕が死んだ時に、「今村翔吾がいたのといないのじゃ、出版業界って結構違ってたかも」って言われたいです。

 何でこんなこと思うかって言うと、多くの歴史上の人物を見て来た中で、僕はそんなに物とか残してやれないなと。別に今受け取る人とかもいないけどね。何かもっと、生きた意味みたいなものを……せっかく出版業界に入ったんだから、残したいなって思ったんです。

©文藝春秋

 それで、あとの人が頑張って菊池寛みたいに自分の銅像立ててくれたら(笑)。

 琵琶湖沖に、バストアップじゃなくて全身の銅像で。……欲にまみれてるみたいだけど(笑)。

 そういうことを、後世の誰かがやってくれるような、そういう生き方をしたいですね。

(取材・構成/沢木つま)

海を破る者

海を破る者

今村 翔吾

文藝春秋

2024年5月24日 発売