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連載尾木のママで

時代の求める小説家

尾木のママで

2018/04/26

source : 週刊文春 2018年5月3・10日号

genre : ニュース, 社会, ライフスタイル, 教育

note
イラスト 中村紋子
イラスト 中村紋子

 辻村深月さん、本屋大賞受賞おめでとうございます!

 実はボク、先日辻村さんと対談させていただいたばかり。彼女の創作姿勢や人生観に触れ、感動さめやらぬ間に飛び込んだ受賞の報。受賞作『かがみの孤城』は、すでに累計発行部数五十五万部越えのベストセラー! 読書離れのこの時代に、五百五十ページ超の分厚い小説がこんなにも求められる理由を考えてみた。

 対談で辻村さんは、この小説は「いじめ」を扱っているけれど、その言葉をあえて使わずに書いたとおっしゃった。「わかったような気になる一言」で括ってしまうと、その子が抱え感じていた感情が物語から零れ落ちてしまうから。子供たちが見、感じ、考えたことにつぶさに寄り添い、「丁寧に」描写しているのね。

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 こんな話を聞いて、百万の味方を得た心地がしたわ。ボクが教員時代にいじめを指導する時、特に加害側の子に対しては、極力「いじめ」という言葉を使わないようにしてきた。だって、「いじめをやめよう」と言っても「ふざけていただけ」と返ってくることが大半。本人には「いじめ」という認識がないから。でも、「怖くて夜眠れないんだって。歯ぎしりも始まったらしいよ」と、被害側の子の状況を具体的に説明すると、すっと理解し、反省の気持ちが生まれることも多かったの。

 ネット社会ではキャッチーな言葉が記号のように即時、受発信されていく。辻村さんの文章は、そんな言葉では掬(すく)いきれない感情を丁寧に紡ぎ、言葉に疲弊した私たちの心を、言葉の力で癒してくれる。言葉を介して登場人物に「共感」を重ねることで、心のバランスを取り戻せるの。だからページ数が多くても先へ先へと読み進めたくなるのね。

 この本を、全国の中・高生、お父さんやお母さん、教育関係者全てに読んで欲しい。時代の求める希代の小説家・辻村さん。今後も期待したいです♥

かがみの孤城

辻村 深月(著)

ポプラ社
2017年5月11日 発売

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