「これは『小説SMAP』である」と帯に謳った単行本『もう明日が待っている』が、今年(2024年)3月末に文藝春秋より発売されて以来、版を重ねている。著者は、この本が出ると同時に放送作家を引退した鈴木おさむ氏だ。
本書は、鈴木氏が月刊『文藝春秋』2023年1月号掲載の「小説『20160118』」以来、同誌に断続的に発表してきた文章に大幅な加筆・修正のうえ、新たな書き下ろしも交えてまとめたものである。
本文中では、グループ名や番組タイトルは伏せてあるものの、先の帯文にもあるとおりここに登場するアイドルグループはSMAPであり、著者が『SMAP×SMAP』などの番組で彼らと関係するなかで起こった出来事がつづられている。
生々しくつづられた緊急生放送の舞台裏
本書のもととなる文章のうち最初に発表された前出の「小説『20160118』」(本書の第8章・第9章に相当)は、SMAPの解散報道が出た2016年1月、報道を受けてメンバー5人が『SMAP×SMAP』の緊急生放送で謝罪するにいたるまでの経緯をつまびらかにし、世間に衝撃を与えた。
それによれば、生放送は放送当日になって急遽決まったという。番組スタッフと彼らの事務所側の話し合いの結果、一旦はメンバーが今回の一件で世間の人に心配や迷惑をかけたことを謝るという内容で著者が原稿を書き、事務所にもOKをもらった。それにもかかわらず、放送1時間前になって事務所の「ソウギョウケ」のトップの一人から、メンバーが社長に謝ったという一文を入れるよう強い指示があり、それに従わざるをえなかった。著者の鈴木氏はこの一部始終を、小説の形をとりながらも生々しくつづっている。
そのなかに出てくる《僕はテレビ番組を作る人間として。あの時。終わったのだと思う。死んだのだ》という一文に表れているように、結果的にメンバーを「悪者」にしてしまい、ファンを不安にさせ、悲しませたことを著者は強く悔いた。
こうして小説として世に出したのも、あの一件についてはいつかどこかで自分のなかでの決着をつけなければいけないとの思いからであったと、本書とほぼ同時に刊行した著書『最後のテレビ論』(文藝春秋)で明かしている。とはいえ、芸能界の暗部にも触れた内容だけに、これが出たら自分はもういまの仕事ができないかもしれないと覚悟のうえで執筆したという。