低価格化が進むなか、高付加価値製品で勝負
――ファッションとしてのメガネという点だと、御社は1972年にヴァン ヂャケットとともに“着るメガネ”をコンセプトとした「EYEVAN(アイヴァン)」というブランドを立ち上げています。
山本 元々オプテックジャパンという会社は、今年で創業107年となる山本光学がアイヴァンをスタートすると同時に社内ベンチャーとして設立した会社が起源で、視力矯正器具であるメガネをファッションとして捉えようということから始まった会社なんです。これまで主な事業として、米国のメガネブランド「オリバーピープルズ」と販売ライセンス契約を締結し、フレームの製造や販売を行なってきました。
――これまでは、いわばオリバーピープルズの黒子的な役割を果たしていた御社が、2013年には一時休止していたアイヴァンを復活させるような形で「アイヴァン7285」をスタートさせました。低価格化が進むなかで、フレームのみ4~6万円という高価格帯のブランドを始めたのはなぜですか。
山本 第一に、購入された方が所有する喜びを持てるようなアイテムを作りたいという思いがありました。フレームはすべてメガネ産地である福井県鯖江市で生産しています。フレームの価格が高いのは、それだけの工程数を経ているからです。パッと見ただけではわからない細部まで職人の手がかけられているわけですが、そこをどう評価していただけるかが勝負でした。
――不安はなかったのでしょうか。
山本 幸い私たちは、自社でセレクトショップなどの小売店舗を20店舗ほど運営していますので、そこだけでもある程度売っていけるという目論見はありました。ですが実際蓋を開けてみたら、ヨーロッパを中心とした海外で、文化的背景も含めて、モノ作りの姿勢を高く評価してもらえました。日本においてはファッション業界からの反応が良かったというのも、これまでにない経験でしたね。
――そこから次第に、日本のメガネ業界へも広がっていったんですね。
山本 はい。あとブランドをスタートしたもう一点の理由として、これまでオリバーピープルズをはじめライセンスブランドを中心にビジネスを展開してきたなかで、自分たちのブランドを作りたいという思いもありました。
ライセンスビジネスの難しさ
――やはり、ライセンスと自社ブランドとでは違いがありますか。
山本 ライセンス契約ですと、ミニマム・ロイヤリティーがあったり、短期で結果を出さないと契約が切れてしまったりなど、ある程度条件があります。ビジネスなので当然のことなのですが、すべてブランドホルダーに従うしかないということに、少なからずジレンマはありました。そうしたことに左右されずにじっくりと取り組むには、自分たちのブランドを持つしかありません。
とくにメインブランドであったオリバーピープルズがイタリアの大手メガネメーカー・ルクソティカの傘下となったことで、我々はこれまで持っていたアジアの販売権を更新できないという事態も起こりました。その事実も大きかったです。
――自分たちでは予測のできない事態が起こり得ると。
山本 こればかりは、どうにもなりません。もともと私の父である会長には、「アイヴァンを世界に通用するブランドにしたい」という想いがありました。このアイヴァンを通じてオリバーピープルズ社と出会い、OEM生産を請け負うことになり、ビジネスとしてはある種成功したのですが、ブランドとしては休止してしまった。私は「今度こそアイヴァンを海外に」と入社当時から考えていたので、欧米で高い評価を得られたことは、本当に嬉しかったですね。