文春オンライン

高級メガネを手がけるオプテックジャパンが鯖江の技術にこだわる理由

「メガネをビジネスする」オプテックジャパン株式会社・山本典之社長インタビュー #2

2018/05/01
note

産地を維持していくために

――鯖江をはじめ内外から評価される伝統工芸の産地がある一方で、消えてしまった産業も少なくないと思います。鯖江のメガネが生き残り、進化している理由はどこにあるとお考えですか。

山本 もちろん産地としては成り立っていますが、全体の流れとしては残念ながら失速していると言わざるを得ないでしょう。一時期は中国をはじめアジアの工場にオーダーが流れてしまい、メーカーが倒産・廃業してしまうことも少なくありませんでした。

 我々は自社工場を持っているわけではなく、協力工場に生産してもらう形を取っていますので、産地が疲弊すればモノが作れなくなってしまいます。現にもう少し量を作りたいと考えるなかで、生産キャパシティの確保がとても難しくなっているのが実情です。高齢化も激しく、生産能力が低下している。そのような状況のなかで産地を永続させていくためにはどうしたらよいのか……。我々もつねに考えていますし、他の企業と話をすることもあります。

ADVERTISEMENT

 

――分業制ということは、パーツを生産している工場がひとつでもなくなれば、生産が滞ってしまうわけですよね。

山本 サプライチェーンの維持はとても大変です。やはり若い人たちが入りやすい業界にしていかなければならないし、皆がwin-winになれるような仕組みを作らなくてはなりません。そのためには、適正な価格で仕入れて、適正な価格を付けて販売していくことが大切です。

 メーカー側が「中国と同じぐらい安くしてくれ」なんて言おうものなら、工場が疲弊してしまうだけですから。我々としてもお客様には商品の価値を理解していただいたうえで、適正価格で買っていただけるようなトライアングルを作れなければ、産地は永続していかないでしょう。

メガネは伝統工芸品である

――納得のいくクオリティは、海外の工場で代替できないのでしょうか。

山本 できないですね。とくに我々は日本人の気質が宿ったモノづくりを継承していきたいと思っているので。

 私は、メガネは伝統工芸品だと考えているんです。視力矯正器具という側面ももちろんありますが、“所有する喜び”といったところに価値を見出したい。洋服もそうですけど、安価なものがあるなかでなぜ高級ブランドを身に纏うのかといえば、そのブランドの背景やクオリティを理解したうえで、所有する喜びがあるからですよね。我々もそうしたアイテムを作りたいと思っているんです。

 

――単なる道具ではないということですね。

山本 ですから我々は、フレームが“どういった背景で作られているか”というところにも焦点を当てたいと思っていまして。海外に向けてのプロモーションでは、日本、そして福井がどういったところなのか、そしてどのようにモノづくりが行なわれているのか、そうした背景から伝えるよう心掛けています。福井には黒龍酒造の日本酒だったり、龍泉刃物の越前打刃物だったりと、世界で評価されているモノづくりも多い。海外でのローンチパーティでは来客に黒龍酒造の日本酒を振舞うなど、メガネだけでなく産地、そして日本の文化や歴史に触れてもらいたいという思いがありますし、そうした伝え方をしていきたいと考えています。