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 これら奇妙のひとつひとつが京都人の鬼門に対する本気度を物語っている。「真剣」と書いて「マジ」と読むくらいハンパじゃないよ。夜露死苦。

完璧な鬼門除け

鬼門 烏丸今出川

 京都人がどれくらい鬼門にマジなのかを示す好例が四条河原町角のエディオン(旧阪急百貨店)地下にある。阪急電車乗り場と四条通出口の接続部分の違和感に気づく人はどれだけいるだろう。見事なまでに不自然に凹んでいるのだ。そこになんの表示もないドアがひとつ。内部は一辺1mほどの三角形の空間。京都随一の繁華街にある絶好のスペースが鬼門除けとして使われているのだ。

 ほんとうに完璧な鬼門除け。あとはドアの枠上部に棚でも作って猿像を設置し、立砂を備えればいうことない。が、きっと人目を引きたくなかったのだろう。なにせスルーが原則だから。

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 おそらく京都はあの世とこの世の間が安アパート並みに薄い。鬼門観察していると思う。だから地獄なんかも近いよ! 「板子一枚下は地獄」とは船乗りさんの危険な毎日を言い表した言葉だけれど、京の暮らしも似たようなものだ。

 地獄でぼーぼー燃える亡者を描いた〈矢田寺〉の絵馬は京都人の日常を象徴しているのかも(笑)。ときに絵馬にはなかなかアナーキーな絵柄があるけれど、こちらの一枚はとりわけインパクトがある。

矢田寺の絵馬

 千本ゑんま堂こと〈引接(いんじょう)寺〉におられる日本最大級の閻魔(えんま)像も親密な地獄との近所付き合いを物語っている。観ていただければわかる。確かに厳めしいお顔だが、脅すような威嚇するような圧はない。わたしはいつも「お仕事お疲れ様でございます」と感謝の気持ちを込めて手を合わせる。

ゑんま堂

 あ、ここにいらっしゃるなら拝殿の内陣を取り囲む杉板の地獄絵も忘れず鑑賞してこられたし。経年劣化でかなり薄れてしまっているけれど、それがかえって想像力を刺激するパワーになっている。

怖いこわい京都 (文春文庫)

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入江 敦彦

文藝春秋

2024年7月9日 発売