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京都にはあちこちに結界が…“鬼門封じ”を絶対にしてはいけない理由とは

京都にはあちこちに結界が…“鬼門封じ”を絶対にしてはいけない理由とは

『怖いこわい京都』特別エッセイ#3

2024/07/21

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 社会, 読書

note

「鬼門封じ」ダメ。ゼッタイ。

 近年「鬼門封じ」という言葉が使われる。マンガでならいいが、この表現を多用する人や本は信じちゃダメ。ゼッタイ。封じられないからこそ鬼門と呼ばれるわけで下手に防御したり戦ったりしようとしたら、どんな災難がふりかかるかわからない。鬼門には猿知恵がいちばんなのだ。

 猿知恵といっても「浅い」という意味ではない。〈赤山禅院〉や御所の〈猿ヶ辻〉など鬼門に関わる場所にしばしば猿の偶像が置かれる。これは天から降りた日本の創造主を道案内したサルタヒコという神様の霊力で鬼を素通りさせようという作戦。

赤山禅院
赤山禅院
結界竹(赤山禅院)

 赤山禅院、糺の森という京の北東鬼門ライン上にある〈幸神社〉。「さいわい・じんじゃ」ではなく「さいのかみ・の・やしろ」と読む。幸神とは「塞の神(さえのかみ)」からきている。道路と集落の境目で、外部から来る厄介=疫神や悪霊などを防ぎ止める神で、道祖神とも呼ばれる。

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幸神社

 必ず鬼門に置かれるわけではなし、祭神も自然石やお地蔵さんのことが多い。けれどここは京都の北東部とミヤコを結ぶ出雲路の道祖神だったので鬼門除けの性質を強め早い段階で猿田彦を主神に置いたようだ。「猿田彦大神御神石旧跡」の石碑も立つ。

 そんな複雑な成り立ちゆえ、この神社の狭い境内には平安京以前からの“奇妙”がぎゅうぎゅう詰め。

 板塀に囲まれた本殿東側の軒下には前述した御所、猿ヶ辻の猿と同じ木像が置かれている。そもそもこちらの本殿は人が参拝するためのものではなく神様の通路であることを示す「立砂(たてすな。盛砂のこと)」が両脇に置かれている。これは〈上賀茂神社〉〈八大神社〉〈鷺森神社〉。鬼門ラインに当たる神社にしばしば見られる。誘導灯のようなものかもしれない。

拝殿内陣の盛砂(幸神社)
上賀茂神社

 これ、料理屋さんなどが玄関に出す「盛り塩」の原型といわれている。良客を招き、鬼門から来たような客は素通りしてもらうための呪術なのだ。

盛り塩

 本殿南東角に積まれた大小の丸い石も意味ありげだし、なんの説明もなく「石神さん」とだけ名札がかかった自然石も厳重に立ち入り禁止になっていてドキドキする。あと、末社に荒ぶる神スサノオを祀る疫社があるのは定石(じょうせき)だが、ご神体を収めた祠の扉が壊れて中がむき出しなのはヤバい気がした。いまはきっと修理されているだろうが。

幸神社
石神さん(幸神社)