インバウンドに沸く千年の古都・京都には、「雅」の裏に隠された得体の知れない怖さが存在する――。『イケズの構造』『京都人だけが知っている』等の著書で知られる生粋の京都人・入江敦彦氏が、このたび「京怖(=京都の恐怖)」の百物語を綴った『怖いこわい京都』(文春文庫)を上梓した。

 ガイドブックには決して載っていない、都に暮らす人々だけが知る「異形」の京都の魅力をこっそり教えます。(全4回の2回目/最初から読む

『怖いこわい京都』(入江敦彦 著、文春文庫)

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 コロナ禍以降の時代の流れの中で京都も望むと望まざるとにかかわらず様々な変化が起こっている。愛された老舗や、人気のあったお商売が経済的な理由だけでなく姿を消している。どこかやめる切っ掛けを探していたのではないかとすら感じる。いわゆる町屋ならば蘇るケースもあるけれど、とうの昔に命が尽きていた廃墟なんてものは平家物語ではないが「偏(ひとえ)に風の前の塵に同じ」。

 洛中最大の廃墟(だったらしい)河原町今出川の了徳寺、京の九龍塞城と呼ばれた京大の光華寮。2023年には京都廃墟界の雄(なんじゃそりゃ)全和凰(ぜんわこう)美術館までもが取り壊された。在日韓国人画家が10年かけて建てたからくり箱のような私設ギャラリーが30年かけて廃墟になってゆく様を観察するのは秘かな楽しみだったのに……。

了徳寺
京大の光華寮
全和鳳美術館があった場所

 洛中から味のある風景がどんどん消えてゆく。死んだ子の歳を数えても仕方ないが、比較的、悠長に時が重なる京だからこそ、失われた時の胸の痛みは鋭く、いつまでも後を引く。

廃墟の聖地

 が、なかには市が積極的に保護しようとしている廃墟もあったりするのが京都だ。〈愛宕山ケーブル駅舎跡〉。廃墟の聖地ともいわれる。この一帯は〈愛宕山ホテル跡〉〈愛宕山遊園地跡〉といった優良(笑)物件が集まる愛好家にはたまらんエリア。徒歩……もとい登山しか行きつく方法がないのも幸いして荒らされずに済んだ。ヘビーよ。片道3時間くらいかかるもん。覚悟が必要。

 
 
 
 

 上記の全和凰美術館があった九条山付近も渓谷のようなロケーションに助けられて再開発が緩やかだ。都市の“影の遺産”とでも呼ぶべきものが残っている。もっともこちらはずっとアクセスしやすい。市営地下鉄東西線が開通して徒歩でいける場所も増えた。ライトな廃墟好きにおススメ。蹴上(けあげ)浄水場ツツジ群開花の季節のほかは実にひっそりとしている。