処刑場があった土地に…

 有名なのは〈アクアパーク東山〉の遺跡(?)。営業していた当時は表の三条通りから入園できたはずだが、いまは東山ドライブウェイの半ばから見下ろすしかない。フニクリフニクラ坂を登ってゆくと蜃気楼のようにそれは現れる。

 ウォータースライダー付きのプール施設だったのだが、そもそも江戸時代以前からの刑場として1万5000人の血を吸ってきた粟田口処刑場の跡地というロケーション。ヤバいとかヤバくないとかいう問題じゃない。親戚が近くにいたので営業時代も知っているが不思議なことにとくに怪談は聞こえてこなかった。無事に成仏されたならいいのだが。

 しかしわたしが九条山でまず紹介したいのは〈日向大神宮〉だ。日向と書いて「ひむかい」と読む。創建はなんと5世紀にさかのぼる。京都が京都になる前からあった社なのだ。日本の国土を造ったイザナギ、イザナミという神様が降り立った筑紫国日向(いまの宮崎県)の高千穂峰を勧請(のれん分けみたいなもの)したのがご由緒。内宮にはご存じアマテラスが祀られ、ほかにも十七柱(神様の数え方)の古い神々が鎮座されている。

ADVERTISEMENT

 
 

 社殿は「神明造」という神社建築の初期様式で、歴史あるお社の多い京都でも珍しいクラシックなスタイル。それらを見るためだけでも充分にお詣りの価値あり。だが、その先の「天の岩戸」という遺跡がまた凄い。3mほどの一枚岩にトンネルを通してあるのだが機械などなかった時代にどうやって? と考えるだけで想像力が暴走する。

天岩戸
天岩戸の内部から

“神様的なもの”を「なかったことに」

 もうひとつ、日向大神宮には不思議なものがある。それはただの鳥居だ。が、その向こう側になんにもないのである。唐突に低い土砂の崖になっている。小さな祠を置くスペースすらない。わたしが訪れたときは鳥居前に「この先は人の領域ではない」ことを示す結界竹というものが立てられていた。

 
 

 現在は「これは御山全体を拝むための鳥居です」と汚れた立札が出ている。言い訳だと感じた。

 

 それは無記名で明らかに公式ではない。「危険ですから入らないでください」と但し書きも貼りつけられている。結界竹の意味を知らず踏み越えた者にトラブルがあったのではないかと思った。