「これはえらいところに来てしまった」
男子だろうが女子だろうが同じバレーボール。そう思っていたのは大間違いだった。さっそく女子チームの監督をしていた知人に相談したところ、「上から一方的に話すのではなく、一人ひとりと個別に対話したほうがいい」というアドバイスをもらった。そこで各選手と個別に面談をすることにしたのだが、またもや問題が起きた。
練習を始めてから3日目。ある選手と面談したら、こんなことを言われた。「眞鍋さんは今日私に10分指導してくれましたけど、同じポジションのあの選手とは昨日20分くらい練習してましたよね」。前日の練習では強打のレシーブが苦手な選手に、私が自らスパイクを打って特訓したのである。それが「監督はあの選手だけ特別扱いしている」と見られたのだ。
チームスポーツとはいえ、選手の間にはライバル意識がある。とくに同じポジションを争う選手同士ならなおさらだ。ライバルへの嫉妬心をプラスのエネルギーに変えられれば、チーム力のアップにつながる。しかし、一歩間違えると負の感情が伝染し、チームが崩壊してしまう。
私はえこひいきをしたつもりはない。でも、選手がそう受けとめてしまえば同じことだ。もちろん男子にも嫉妬心はあるが、ある選手を特訓したからといって、それをえこひいきと取られることはない。ところが女子チームの場合、微妙な感情が働くのである。「これはえらいところに来てしまった」と思った。
本人は公平に接しているつもりでも…
その後はとにかく全選手を公平に扱うことを心がけた。練習のときだけでなく、ミーティングや声かけにも気を配った。しかし、男社会で育ってきた私には、女性の心理というものがよくわからない。
たとえば、女性が髪形を変えたら、さりげなく褒めるのが大事だとアドバイスされたが、そもそも私は髪型が変わったことに気づかないのである。ばっさり切ったりすればさすがに分かるが、ちょっと色を変えたとか、微妙に前髪をいじったぐらいの変化だとさっぱりだ。長年セッターをやってきたから人間観察には自信があったのだが、女性のこととなるとからっきしダメである(苦笑)。
そこでマネージャーの宮﨑さとみに頼んで、選手が髪形を変えたら教えてもらうことにした。それで「お、なかなか似合うやん」と言えば、「監督は私のことを気にかけてくれているんだ」と思って、選手の気分も上がる。女子の場合、そういう些細な気遣いの積み重ねが、チームの雰囲気をよくするために大事なのである。
女子チームの監督には公平性が求められる。それは分かった。しかし、私が公平に接しているつもりでも、選手が不公平を感じているということもある。とくに試合での選手起用については不満が生じやすい。
誰もが納得できる客観的な基準を示せないものか……と悩んでいたとき、ふと思いついたのが、“数字”だった。