それまでは選手が自分たちで問題を解決できるかどうか見守っていた。監督がすべてを指示していると、選手は成長できない。口を出したくなるのをじっと堪え、選手の自発的な行動を促す。それも指導者の務めだ。ただ、選手たちだけでは解決できないときには、ショック療法を施すことも必要だ。
私は試合後、古賀を呼び、ふたりで話をした。
「どうや? なにが問題だと思う?」と訊くと、古賀は「関のトスがタイミングよく出てこないから、合わないんです」と言う。「ああ、そうかあ」と、彼女の話にしばらく耳を傾けた。古賀は日本の中ではずば抜けた力を持つ選手だ。バレーに対してきわめてストイックで、人一倍努力をする。そのぶん、周囲の選手に求めるレベルも高い。彼女の存在がチームを引き上げている一方、若い選手が緊張する原因にもなっている。
スパイカーとセッターの「負のスパイラル」
合宿中、竹下佳江を交えて関、松井、柴田らセッター陣と話してみたところ、「レフト(古賀)にトスを上げるのが怖い」と感じていることが分かった。セッターも人間。機械のように正確にトスを上げ続けることはできない。精神的にストレスがかかれば、なおさらトスがぶれたり、テンポがまちまちになる。
他のチームなら、背の高いスパイカーに向かって、ポーンとハイボールを上げればすむ場面で、日本のセッターは速いトスをピンポイントで送らなければならない。練習ではできても、試合になると「合わなかったらどうしよう」という不安が頭をよぎり、わずかにテンポが遅くなる。
そうすると、練習通りのタイミングで跳んでいるスパイカーにとっては「打ちたい場所にボールが来ない」ということになる。それが繰り返されると、スパイカーは「本当にトスが来るのかな?」と疑念を抱きはじめ、助走の勢いがなくなり、跳ぶタイミングがずれ、思い切ってアタックに入れなくなる。
そこでスパイカーはセッターに、「一定のトスを上げてほしい」と要求する。言われたセッターは「スパイカーに合わせなければ」と思うあまり、緊張してますますトスがずれる。完全に負のスパイラルである。
しかも、セッターがレフトに気を遣うあまり、今度はライトのトスに神経が回らなくなる。今大会、林がいまひとつ調子に乗れていないのは、それも理由のひとつだ。
コンビを合わせるには、技術だけでなく、コミュニケーションや信頼感が欠かせない。要するに人間関係の問題なので、私が古賀とセッターを呼んで話し合いの場を設けても、おそらく解決しない。かえって話がこじれる可能性すらある。
コミュニケーションは、誰に、いつ、どう話すかが重要。私が「ここだ」と思ったのが、ドイツに負けたあとだった。