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「裸の日本人が真っ暗な室内に横たわり…」“密航者窒死”の詳報

 10日付東朝は「全く知らなかった」という船長の供述を掲載。同日付の東日が比較的詳しい状況を載せた。

 伏木丸は3月21日、長崎を発し25日夕刻、香港に着いて停泊した。その翌朝のことらしいが、某機関士が食堂に入ったとき、一種の悪臭を感じ、死んだネズミか体臭かと思ってボーイを呼んだ。部屋の四方を洗ったが、臭気はますます増すので、周辺をくまなく捜索したが、手掛かりは得られなかった。

 

 ブケヤ―機関長が食堂の下にある水槽につながるマンホールを調べるように命令。元来そのマンホールは機関室のはしごから通じるもので、かつて開けたことはなく、ほとんど密閉されていた。1人の火夫(かふ)(=ボイラーを扱う人のこと)はなんとからせん状の板を抜けてそれを取り去ると同時に、悪臭がにわかに鼻を突いたので、火夫は耐えられなかったのか、はしごを踏み外してほとんど生気がないようになった。

 

 その物音に驚いて船長はじめ多くの乗組員が現場に駆けつけて見れば、何やら数本の脚が入り乱れて横たわっていた。それで警察官、医師、日本領事らを呼んで事情を検討したところ、無残にも裸の8人の日本人が真っ暗な室内に横たわり、目や舌を突き出して、その臭気と熱は非常な強さと高さに達していた。わずかに、少し離れた所に倒れていた裸の4人の女性が少し動くのを見ただけ。乗組員に命じて4人を引き出し、甲板上に置いて休ませたところ、やや知覚を取り戻したようだったが、うち1人は日光がまぶしかったらしくすぐ倒れた。

※写真はイメージ ©AFLO

外から空気が入るところがなかった

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  死亡した8人のうち7人は女性、1人だけ男性がいたという。記事は続く。

 空気をとるのがよほど難しかったようで、石炭の積み重なった左舷(さげん)に集まって口をぱくぱくさせていたとみられる。遺体があった部屋の高さは約91センチで、最も低い所だと約46センチ。幅はわずか61センチで、なんとか座ることができるにすぎない。その窮屈な部屋には外から空気が入るべきところがなく、1週間に12人の人間がこの中にいてはとても助かることができなかっただろう。