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「もっと良い人がいるかも」と理想のパートナーを探し続けてしまう…コスパ・タイパを重視する、マッチングアプリの意外な落とし穴

『結婚の社会学』より#3

6時間前

genre : ニュース, 社会

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 マッチングアプリが危険ではないと言いたいわけではありません。対面でリアルな出会いでも、出会いには常に危険がつきまとう可能性があるということです。

 マッチングアプリに限らず、日常生活にはスマホゆえの危険以上に、スマホがあったおかげで回避できた危険の事例も多くあるように思います。危険な側面のみを過剰にクローズアップし、一括して否定するのは冷静な議論を阻むように思います。

「正しさ」への思い込みからマッチングアプリを否定するのではなく、デジタル社会における出会いの変容を前提に、つながりの形成をどのようにサポートするかを議論するほうが建設的だと思います。

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マッチングアプリが及ぼす影響

 マッチングアプリを安易に否定する傾向には注意が必要ですが、それが及ぼしうる社会的影響についても考えてみましょう。

 第一に、人々の持っている既存の価値観を補強するという側面があるように思います。

 マッチングアプリのような新しい手段が登場すると、世間ではそれが社会をどう変えるかに関心が集まります。

 しかし、新しく登場した手段が必ずしも新しい価値観を生むわけではないという視点も大事です。むしろ、新しい手段が古い価値観を補強することもありえます。「出会いの手段」が多様化しても「出会いの目的」が画一化する可能性があるのです。

 AIによるアルゴリズムは各個人の初期傾向に沿って生成されるため、すでに存在する価値観をより強化する傾向を持っています。マッチングアプリもまた、社会通念に沿って、それを後押しするかたちで、既存のジェンダー規範や結婚をめぐる価値観を補強していく可能性があります。これが異質な他者への理解を妨げることも考えられます。

 以前、ある結婚相談所で取材を行った際に、最近は「結婚相手が見つからない」という理由ではなく、「より良い結婚をするために」20代前半から利用する女性も増えているという話を聞きました。結婚相手との出会いを偶然に任せていては非効率だし、リスクが高いというのです。

 結婚相談所では最初から学歴や年収、趣味、家族構成などの詳細な情報を得られます。自分の理想に合ったパートナーときわめて効率的に出会うことができるというわけです。

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