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解けない「Why」にどうやって向き合うのか

福岡 人生の浮き沈みは誰でもあるので、「100しかないところから10を寄付せよ」ではなく、たまたま120になったら、余剰をあげればいい。

小川 「Why」と「How」で思い出すのが、文化人類学者の石井美保さんの著作『遠い声をさがして 学校事故をめぐる〈同行者〉たちの記録』です。これは小学校でのプール事故で娘を亡くした遺族たちが経験した10年間の記録。遺族は「なぜ愛しい我が子を失わなければならなかったのか」という「Why」の問いを抱えているが、学校側や行政が提示できるのは、プールの水深や管理体制についてなど「どのようにして事故は起きたか」という「How」の問いの答え。遺族は止まった時間の中で「Why」を問い続けるのに、社会は日常を取り戻すために「How」の答えを教訓という形に変えて未来の物語に還元する。結果、遺族は新たな苦しみを抱えることになるのです。

福岡 たしかに科学は「Why」を教えてくれないかもしれない。でも、最終的に「Why」の疑問文に到達するためには、「How」の疑問を丁寧に解かないといけないんです。それをせずに、いきなり「Why」の答えを出そうとすると、オカルト論や陰謀論に陥ってしまう。一方で「How」だけで物語が完結するわけじゃない。あらゆる科学理論がそうなのですが「How」を解くことに懸命になりすぎるがゆえに、生命全体の「Why」に目を向けられていないんです。

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小川 解けない「Why」にどうやって向き合うのか。それは、人文社会科学が取り組んでいかなければならないことだと思います。

福岡 「文理融合」は、本来そういったことを目指すものだと思うのですが、現状必ずしもそうなってはいない。どのようにしてその理想を体現するのか。それは私たち研究者に与えられた課題なのかもしれません。

(ふくおかしんいち/1959年生まれ。生物学者。青山学院大学教授。米ロックフェラー大学客員教授。『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)でサントリー学芸賞、中央公論新書大賞を受賞。著書に『新版 動的平衡ダイアローグ:9人の先駆者と織りなす「知の対話集」』(小学館新書)など。)

 

(おがわさやか/1978年生まれ。文化人類学者。立命館大学教授。大学院生時代からタンザニアでフィールドワークを始める。『チョンキンマンションのボスは知っている』(春秋社)で大宅壮一ノンフィクション賞、河合隼雄学芸賞を受賞。著書に『「その日暮らし」の人類学』(光文社新書)など。)