選択と集中ではなく、バラまきを
福岡 非アルゴリズム思想ともいえますね。広く浅く投資しておけば、そのうちどれかは成功するというのは理にかなった考え方。科学研究費の分配もそうすればいいと思うんですが。選択と集中ではなく、500万円ずつでいいからバラまいておいたほうが、画期的な研究が出てくる可能性が上がると思うんですよ。
小川 本当にそのとおりです! それに“絶対上手く行きそうな研究”って、こぢんまりしがち(笑)。
福岡 自然も宇宙も人間関係も不確実なもの。我々は因果関係論を信じすぎているけれど、欧米が作り上げた近代社会が結果的に世の中をせせこましくしているのでしょう。タンザニア商人の例を聞くと、欧米の進歩史観からすれば“未開”と思われているところにも緻密な物語があるのだと気づかされます。
小川 たとえば妖術や呪術もそうですよね。タンザニアの人々はマラリアになった時に近代的な病院と伝統的な呪術医の両方に行くんですよ。
福岡 マラリアはハマダラカという蚊を介してマラリア原虫に感染することで発症するため、近代的な病院では薬を飲んで病原体を殺すのですよね。なぜ呪術医にも行くのですか。
小川 実際マラリアで呪術医に行った人曰く、「私は友達7人と一緒に川辺を歩いていたけれど、マラリアになったのは私だけ。なぜ蚊が私を刺したのかというと、誰かが私に妖術をかけているかもしれないから。それを解かなければ、次は交通事故にあうかもしれない」と。
福岡 なるほど、その妖術を解くために呪術医に行くわけですね。
小川 いまや機能主義は流行らないけれど、社会人類学者のエヴァンズ゠プリチャードは、妖術が社会の機能維持に役立っていると述べました。不幸の原因が誰かから嫉妬や恨みを買って妖術にかけられたことにあると考えると、恨みを買わないよう富を分配しなければならない。つまり妖術がある種の社会福祉的な機能を果たすのです。
福岡 おもしろいですね。その話、富を独占している資産家の人たちに声を大にして教えたい(笑)。ところで、小川さんはタンザニアでマラリアになったことはありますか。
小川 あります。呪術医にも行きますよ。
福岡 呪術医ではどのようなことをするのですか。
小川 地域や民族によって異なりますが、私の場合は、呪術師に言われたとおりに鶏を持っていったら、首を落とし、血の飛び散り方を見て占ってくれました。日本でも、不幸が続くと墓参りをして祖先を敬ったり、宗教的な祭事など社会の凝集性を保つものに力を注いだりする。私たちの生活にも、科学では説明できないことはたくさんあるわけですよね。