メダル独占への期待も膨らむが、そう簡単にはいかないワケ
男子ストリートは日本勢全員にメダルの可能性があるが、言い換えれば絶対的な大本命がいないということの裏返しでもある。世界のスケートボードシーンは2010年代末より堀米雄斗とナイジャ・ヒューストン(アメリカ代表)の2強時代が続いていたが、東京五輪以降は下の世代が急成長を遂げ、群雄割拠の時代へと突入してきた。
パリ五輪ではより成熟したアメリカ代表で東京五輪の銅メダリスト、ジャガー・イートンやポルトガル代表のグスタボ・リベイロ、地元フランス代表のオーレリアン・ジローらも十分優勝の可能性はあるだろう。
最年少記録を更新する小野寺吟雲
対して日本勢はと言うと、東京五輪にも出場している白井空良は経験を積み重ねたことで精神面が大きく向上、以前のような危うさは消え、最近は安定した力を発揮している。もともとハマった時の爆発力は随一なだけに、今回こそは本番に照準を合わせてくるだろう。
次に日本選手権やX Gamesの優勝、世界選手権の表彰台入りなどで次々と最年少記録を塗り替えている小野寺吟雲。
彼の特徴はものすごく複雑な回転をするトリックでも、あっさりと乗ってしまうところ。それは業界関係者の多くが「まるでゲームを見ているようだ」と語るほどで、特にラン(自由に45秒間滑る競技)では彼ほどあらゆるところでクルクルと回す選手はいないため、無類の強さを誇る。
唯一の課題はベストトリックで点数が伸び切らないところか。大人と比べると癖のある大きなセクション(障害物)への対応に体格差が出てしまうところもあるが、そこに関してもトリックやセクションの使い分けで十分に対策をしてくるだろう。
“スーパースター”堀米雄斗の時代が続くのか
では最後に前回の東京五輪での金メダリストの堀米雄斗。彼はパリ五輪予選の最終戦で劇的な優勝を飾り、土壇場で国内3番手に滑り込み出場権を獲得している。世界ランクでも3位と、メダルを狙える位置にはいるが、日本の若手の急成長を考えると今回は厳しいと思う方もいるかもしれない。だが、それでも彼には何かを期待せずにはいられないのだ。
東京五輪では後半のベストトリックで大逆転、およそ2年に渡って行われたパリ五輪予選大会では圏外から最後の最後で大逆転。しかも過去の自分の最高難度のトリックをアップグレードさせての優勝は、まるで漫画の主人公のようだった。
彼は自身の著書『いままでとこれから』で、これまでの人生を“得体の知れない誰かに導かれているような感覚もある”と記している。彼を小学生の頃から見続けている筆者にとって、これほどしっくりくる言葉はなかった。神通力を持っているのでは? と思わせてくれるほどの圧倒的な存在感は「堀米雄斗」にしかないものであり、多くの人にそういった期待を抱かせてくれる彼は、やはり真のスーパースターなのだろう。
堀米時代が続くのか、それともナイジャ・ヒューストンの逆襲が待っているのか、はたまた小野寺吟雲らが新時代の幕開けを告げるのか。勝負の分かれ目はパーク中央部にあるメインセクション、バンクから幅と柵を飛び越えて入るハンドレールの使い方になるだろう。
パリ五輪、スケートボードは今月28日に開幕する。