モテ散らかした私はこれでようやく収まるところに収まり平穏無事な日々が訪れるのだと思っていた。誰かからの承認を求めて足掻(あが)き続けることも、男性から獲物のようにジャッジされた挙句仕舞われもせず逃げられることも、全部終わってゆるふわ主婦ライフが始まるのだと期待した。が、前者は私により後者は一部の男性により砕け散る。不倫のお誘いが激増したのである。
「ガワモテ+既婚」というのは、ある種の男性たちにとって一番都合の良いスペックであるらしく、お互い様であれば口をつぐむだろう、家人の居る夜や週末は連絡して来ないだろうと考えた本命のいる遊びたい男性たちがこぞって私を誘った。嬉しいはずがない。ナメんなよ、と。なにが「ヒルトンホテルでランチでも」だ。ランチ価格でお得って、お前はご褒美主婦か。「営業の合間にちょっと抜け出すんで」って、私をサボリーマンのネカフェ代わりにするんじゃない。某私大の哲学科教授に「僕、真理の探究が……したいんです!」とハプニングバーに連れ込まれそうになったこともあったけれど、そんな『SLAM DUNK』の三井君ばりに溜めて言われても。真理にも井上雄彦にも謝れ。
お手軽不倫の誘いが増える
周りを見渡すと結構みんな不倫していた。私の観測では日本で最もお手軽な恋愛(モドキ)は不倫だ。別に他人がする分には勝手にすればいいと本気で思う。でも私は倫理や道徳や貞操観念の介在する以前に「ダセェ」からしない。幼い頃からモテ散らかしてきた自負があるので、そんなLINEスタンプ一つ「OK♥」とでも押せばすぐ始められるようなガワモテに今更興味がない。そんな訳で結婚して13年間、私は無事故無違反だ。さすが、『池袋ウエストゲートパーク』(IWGP)で窪塚洋介扮するキングに「悪いことすんなって言ってんじゃないの。ダサいことすんなって言ってんの」と教えられて育った世代である。ヤンキー文化は色々救う。
ただ、モテてきたことの後遺症がある。これはモテてきた女性や現在モテている女性への注意喚起として老婆心ながら伝えておきたい。私は若い頃にチヤホヤされ過ぎたせいで「自分の好意は喜ばれるはず」と勘違いしている節がある。
以前、敬愛する先輩作家とご一緒したときだ。私は緊張してその作家先生と全く喋れなかった。それでも存在感だけはある私はパーティー会場の片隅で場を沸かしていた。その後、喋れなかったことが悔やまれ私は作家先生にSNSでDMを送ったのだ。「ご著書拝読しております。私にとって先生はあまりにも魅力的で近づくことすら出来ませんでした」。今なら全力で自分にビンタして送信ボタンを押させない。その作家先生の返信はこうだった。「ご連絡恐れ入ります。拙著もお読み頂きありがとうございます。どうか、今の距離を保たれてください」