「今まで生きてきた中で、一番幸せです」
1992年のバルセロナ五輪。当時14歳の少女の言葉に、日本中が沸いた。競泳の史上最年少金メダリストである、岩崎恭子さん(46)。世間が興奮に包まれる一方で、本人はどう感じていたのか? あらためて話を聞いた。(全3回の1回目/つづきを読む)
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未だに覚えていただいてありがたい
――五輪シーズンになると風物詩のように、「今まで生きてきた中で、一番幸せです」という言葉が紹介されます。32年経っても変わらず伝えられることをご本人はどう思っているんですか。
岩崎恭子さん(以下、岩崎) ありがたいですよ。これまで競泳だけでなく、五輪で活躍した選手はたくさんいるのに、未だに覚えていただいているんですから。でも、時には、「岩崎宏美ちゃん」と呼ばれたりもしますが(笑)。「人生で一番幸せ」と言ったよね、と確認されるので、やっぱり覚えていただいているんだな、って。幸せなことですよね。
ただ、私自身はあの時の金メダルに執着することはないし、過去は過去と割り切っているんですけど、話題を提供できているのは嬉しいことです。
競泳選手の言葉が注目される理由
――14歳の中学生が、「今まで生きてきた中で……」という言葉を発したことは、かなり衝撃的でした。
岩崎 何も考えないで、咄嗟に出たんです。不意に出た言葉は、嘘がないから多くの人に伝わるのかもしれません。北島康介さんがアテネ五輪の時に発した「チョー気持ちいい」はその年の流行語大賞に選ばれましたし、北京五輪で口を突いた「なんも言えねぇ」も多くの人の記憶に残っていると思います。
ロンドン五輪の時に、松田丈志さんが言った「康介さんを手ぶらで帰すわけにはいかない」という言葉もかなりクローズアップされましたよね。
なぜ、競泳選手の言葉が注目されるのか。これには理由があるんです。競泳は五輪では、試合が終わった瞬間にマイクを向けられるんですよ。だから、泳ぎ切ったばかりで考えがまとまっていないし、現実の成績を受け止めるので精いっぱい。何を喋ろうかなんて思い浮かびもしないから、本能のまま言うしかないんです。その時の魂が語るみたいな……。だから、多くの人の心に突き刺さるのかも。