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急に注目され、心がズタズタに傷ついた

――その一方で、五輪後に急に注目され、解離性健忘(心的外傷やストレスによって引き起こされる記憶障害のこと)になってしまったとか。

岩崎 バルセロナ五輪直後から高校1年ぐらいまで、ほとんど記憶がないんですよ。金メダリストになった途端、環境ががらりと変わってしまって……。

 家から一歩出ると、多くの人に視線を向けられるし、学校の行き帰りには知らない人に後をつけられたりしたことも。家の電話は鳴りっぱなしだったし、自宅に剃刀の刃を送られたこともありましたね。

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©深野未季/文藝春秋

 また、知らない人に「14年間しか生きていないのに、人生の何が分かる」とか「私なんて何年生きていてもいいことがない」と声を掛けられたこともありました。今だったら「幸せを感じるのに年齢は関係ないでしょ」と笑って言い返せますが、まだ思春期になったばかりだったから、心がズタズタに傷つきましたね。
 
 学校でも「校則のスカートの丈が変わったのは、岩崎が要求したからだ」とか、何かあるたびに「岩崎のわがままでそうなった」と噂されているのが私の耳にも届いていました。

「金メダルなんて獲らなきゃよかった」毎日のように後悔

――まだ心が成長していない少女が体験するにはあまりにも過酷な現実です。

岩崎 当時はネット環境もなかったので、今ならSNSなどでバッシングされるようなことがダイレクトに耳に届いてしまって。そのたびに「金メダルなんて獲らなきゃよかった」と思ったし「あんな言葉を言わなきゃよかった」と毎日のように後悔していました。

©深野未季/文藝春秋

――記憶を消したのは自分を守るためだったんでしょうね。消さなければ生きていけなかった。

岩崎 後で考えても、何に悩んでいたのかよく覚えていないんです。大学で心理学を専攻し、卒論でその頃の自分を分析してみようと試みたのですが、教授に止められました。「まだ早い。大学生の君は、当時の記憶に耐えられるほどまだ心が出来ていない」って。

 しばらくたってから、友人や家族にあの時はこうだった、ああだったと言われ、微かに記憶は戻りつつありますが、過去を振り返っても仕方ないので、この話をするのは4年に1回でいいかな(笑)。