恥ずかしいことだと思って誰にも言えず…
――そういう状況に置かれていることを、誰かに話したりはしなかったのですか。
武田 言わなかったですね。「子は親の背中を見て育つ」って言うけど、あれって本当で。ちっちゃい頃から、母親が文句のひとつも言わずに黙々と働いている姿を見てたからね。家のことをやってから夜勤に行ったり、満足に寝てないのに朝早くから働きに出たり。そういうのを見てると、自分のことは自分でやんないといけないなって思うよね。
人に言うことでもないし、恥ずかしいことだと考えていたところもあったけどね。後に親父と母親は離婚するんだけど、それも恥ずかしいことだと思って誰にも言わなかったし。そういったことすべてを自分の中で我慢して、寂しさを忘れるために好きなサッカーに打ち込んでたっていう。打ち込めるものがあったからやってこれたんだと思う。
「ぼくは、6年間でいつも苦労していた」小学生時代の卒業文集の内容
――お母さんは、厳しい方でした?
武田 怖くはなかったけど、小さい頃から「自分の行動には責任を持つ」「周りに迷惑をかけない」「辛い時でも笑顔でいろ」っていう3つは常に言われてましたね。
寂しかったけど、そういう状況でいろいろ学ぶこともあったからね。時間をムダにしないこととかさ。
――小学校の卒業文集を持ってきていただきましたけど、そうしたことを綴っていますよね。
武田 そうそう。出だしから「ぼくは、6年間でいつも苦労していたと思います」だからね。
(文集を読み上げる)「サッカーとか部かつがある時はいつもへたへたになって家に帰ります」「家に帰っても誰もいず、まっくらで電気一つついていなく」「そんなときぼくは、じっとお母さんの帰りをまちます」「日がくれるのがおそいと家まで歩いて帰ります。たとえ雨がふっていても、ぬれながら一歩一歩、歩いていきます」って書いていて。
「しかし、その反対によいこともあります。それはわすれ物をすると、どんなにたいへんかわかるし、他の人とちがい、家がとおいので時間の大切さがわかりました」って締めてる。