それでも事実上の死刑確定日となる判決公判が同年9月8日に行われることがその前月に決まると、和也は猛烈なペースで書きはじめる。「自分の半生を世に知ってもらいたい」と5回にわたり断続的に手紙を送り、計160枚の手記を私に託したのだ。
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まずこの手記を書いている理由は、自分の半生を振り返った上で、何が原因でこのような人格、性格となり、何がどう影響し合い、「土屋和也」という男性がどのような環境下において変遷していった過程(プロセス)を経て、その最期には殺人犯までに堕ち果てたそれらを明確にすることが、自分に課せられた使命であると考えている。
情景や心情、人それぞれの表情や言動を可能な限り表現・再現しようとすることで臨場感ある表現になると思いますが、これがなかなか難しいです。
自分が犯した際、その被害者と遺族らは「償いなどいらない」「極刑だけを望む」との内容を前橋地裁、東京高裁ともに公表し、土屋本人が彼らに直接賠償をするというのは彼らが望んでいないため行おうとは思っていません。
自分が彼らの愛する大切な人を殺めてしまったのも事実で、反省をしても彼らのもとへは被害者は戻りませんし、反省はしても自分に何の利点はないし、何も環境は変わりません。
「人でなし」「殺人犯」「卑怯で卑劣者」「反省ゼロの殺人犯」「老人狙いのゴミ野郎」……。そう世間から後ろ指さされて、憎たらしい奴の半生を詳しく知りたくないですか? 自分の手記を読んで、トラウマになったり、気分を害したりした場合の責任は負いかねます。自己責任でお頼み致します。
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「自分の半生を知ってもらいたい」
これが死刑確定前からの、和也の唯一の望みだ。面会に行くと目を真っ赤にしていた。おそらく徹夜で書いていたに違いない。だが手記は未完成で、起こした事件や半生を俯瞰で見て整理しきれないまま裁判は進み、2020年9月8日、最高裁で上告が棄却され死刑は確定した。
「死刑」を知った彼の反応
私はその日も夕方に面会に赴いている。面会室に入ると和也のほうから口を開いた。
「判決を知ってますか?」
「弁護士から聞いてないんですね」
「はい、全然連絡なくて」
「そうですか。残念ながらダメでした」
「ありがとうございます」
「どう感じます?」
「もともと、判例を見ると希望を持ってなかったですから……」
和也は明らかに落胆していたが、それ以降も手記の執筆は続いた。