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「オムツのウンチを投げる」言葉をもたない障害の重い子が里親の愛情で育ち、中学卒業時に先生に言った一言

source : 提携メディア

genre : ライフ, 社会, 教育

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苦しそうに言葉を吐いたあとに、悔しそうに唇を噛んでいだ。だから今、広己くんはソーシャルワーカーとして働いているのだろうか。

一方、坂本さんと共に「坂本ファミリーホーム」の里親をしている歩くんは、大学院で数学を専攻していたが、坂本家に残り養育里親になる道を選んだ。

大学生の時に、歩くんは取材でこう語っていた。

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「ぼくは、広己のようには、お母さんに甘えることができない。遠慮があって。でもこの前、ものすごく勇気を持って、お母さんと喧嘩しました」(歩くん)

坂本さんは、歩くんのことをこう語る。

「歩はずっと、優等生でお利口さん。3歳でうちに来た広己に対して、歩は小1でやっと家庭というものに入ったの。施設を転々として育つうちに、嫌われないように、捨てられないように、鎧をかぶって、自分を隠して生きるクセがついたんだと思う。だから、本音を出すのが得意じゃなくて、それは今でもそう。私はそれをどうやって引き出すか、いろんなチャレンジをしてきているんだけど。20歳のころに一度大喧嘩してからは、ちょこちょこ喧嘩するようになって、その前よりは歩も思っていることを言えるようになったかな」

そんな歩くんの本音に坂本さんが触れた気がしたのは、養子縁組を組むかどうかという話し合いをしたときだった。

養子になれば失うもの

前提として、里親が預かる子どもと、「養子縁組」をして家族の一員として迎える子どもは、イコールではない。どういうことかというと、実親が児相に預けた時点で、その子が里子になるか、養子縁組に出されるかは決まっているのだ。そのため、里子が、里親と暮らすうちに養子縁組をすることを望んだとしても認められることはないが、里子が18歳を超えるとそれが可能となる。歩くんと坂本さんが、養子縁組の話をしたのも、20歳になったときだった。

歩くんには、両親と兄と姉がいることが分かっている。家族に障害があるため、今後家族が生活保護を取得するとなれば、扶養義務が歩くんに生じる恐れがある。歩くんが一切養育されたことがないにもかかわらず、だ。弁護士の勧めもあり、坂本さんは歩くんを守るために、養子縁組を持ちかけた。が、そのときに返ってきた歩くんの答えは、思いもしないものだった。