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「オムツのウンチを投げる」言葉をもたない障害の重い子が里親の愛情で育ち、中学卒業時に先生に言った一言

source : 提携メディア

genre : ライフ, 社会, 教育

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「それは僕の家族の問題だから、お母さんには関係ない。自分のために坂本姓になるということは、僕はしたくない」

その言葉を聞いて、坂本さんは何かに殴られたような思いだったという。

「そのとき気づきました。彼らが親からもらったものって、名前しかないんです。母親の顔も知らないし、他には何もない。苗字しか、彼の出生に関することは何も残ってなかったから。その苗字まで手離したら、自分を生んだ母親とのつながりが、もう全部本当になくなってしまう。この子たち、そんな崖っぷちで、ずっと生きてきたんだって、その言葉を聞いてはじめて気が付いたんです」

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しかし、その後歩くんは坂本家に養子に入っている。

「自分のために坂本姓になるということはしない。けれど、お母さんもそのうち高齢になるし、今後、坂本家の子どもたちが帰る場所を守るためなら、僕は坂本姓になりますって、歩から言ったんです。里子たちのためになるのならって。そうしてまで、彼はここを守るって言ったんだよ。どれほどの思いで、それを決めたかと思うと……」

歩くんだけでなく、広己くんも、他の里子たちもみんな、坂本さんには見えないように気を遣いながら「自分の親は、今どこで、どうしているんだろう」とネットで探しつづけていると思うと、坂本さんは語る。

それは育ての親である坂本さんにとっては、複雑なことではないのだろうか。

「それはないね。自分がどう生まれたか、親がどこでどうしているか知りたいと思うのは、人として当たり前のことだから。それに、私は彼らを自分のものにしておきたいなんて思ったことは一度もない。私の親がかなりきついことを私に言うのは、私を、自分の所有物だと思っているからだと思うの。でも、預かって今日までも、これからも、彼らは私のものではなく彼らのものだし、彼らが幸せだったらそれでいいんです」

だから、里親はやめられない

不妊治療の末に、里子や養子縁組を検討する夫婦がぐんと増えてきた昨今。認知も進み、キャリア支援なども、以前と比べるとぐんと整ってきた。これから里親になりたい人へ、坂本さんはどんな思いをバトンにして繋げたいのだろう。

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