4月某日 渋谷区・某牛丼チェーン (午前5時~午前9時)

 タイミーには履歴書の登録が不要で、面接もない。アプリに身分証の写真を登録すると準備はすぐに完了した。木曜日の早朝、渋谷区の大手牛丼チェーンの募集を見つけ、初応募してみた。申し込みボタン一つで採用が決まり、労働条件通知書はPDFでダウンロードする。

求人の画面

 ドキドキしつつ店に行くと、24時間営業のはずがなぜか店が暗い。店の外で所在なく佇んでいると、「タイミーさん?」と店長風の人に話しかけられた。

「ゴメン、いま交代のはずのベトナム人の子が来てなくて……」

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 聞けば、店長風の人も店長ではなくただのバイトだという。5時になれば彼は帰ってしまうというが、交代のベトナム人男性が現れないのだ。

 とりあえず制服に着替えて、店に設置されたタイミーさん用QRコード(コードを出勤と退勤時に読み取って勤怠管理する)を読み込み、業務を開始する。5時を過ぎても交代の人は現れない。ワンオペ禁止のこのチェーンでは、常にバイトが2人いないと店を開けられないのだ。仕方なく店を開けないままテイクアウト用の箸と紅ショウガを袋にいれる単純作業に従事した。

 結局、ベトナム人の青年は8時前に慌ててやってきた。古くなった肉を捨て、タレに生肉を入れ直し、大釜の白米を飯盛機にセットするグエン君(仮名)の華麗な動きを脇でぼーっと眺める。タイミーさんとは年季が違う。店を開けたのは8時過ぎ。客は常に1人か2人。結局、オーダー取りも会計も牛丼盛るのも全部グエン君におまかせで、タイミーさんは1ミリも頭を使わずにすんだ。

 朝9時。私の上がりの時間になる頃、ベトナム人の女性がやって来た。彼女が店奥のシンクでおもむろに泡洗顔と歯磨きを始めるのを横目に、QRコードを読み取り退勤。タイミー初体験は、こうしてつつがなく終わった。

 タイミーさんは牛丼を作れなくても、オーダーをとれなくても店は困らない。何もできなくても、ただいるだけでありがたいのかもしれない。ワンオペ禁止の決まりを守るため、数合わせになってくれさえすれば。

(バイト代:時給1300円 計5200円)