息を止めて撮影…甲板へ上がって深呼吸してまた艦内へ

吉村 やはり、あったんですか。どんな死体だったんですか。

白石 それはまあ、あとでお話しますが、まず撮影するということが先決だ。他社の記者たちより、一歩でも二歩でも前へ出たい。取材したい。若さと熱心さといいましょうか、そんな気持で、これはぜひとも、室内の情景を自分の手で撮らにゃいけないというので、甲板に駈け上がったんです。そして、甲板に置いてあったカメラをつかみ、ランニングとショートパンツ姿でしたので、よれよれのランニングシャツの内側に、フラッシュの球を三個入れました。

吉村 やはりフラッシュがなければ、艦内は闇ですから撮影できませんね。

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白石 そうです。それでカメラの距離を3メートルにセットし、シャッター速度もセットしました。それから、フラッシュも確実につくかどうかテストして、大丈夫であることをたしかめて、それでまた大きく深呼吸して、艦内へ再び入りました。それで、兵員室の入口の所でカメラをかまえ、パッと撮った。露出は、11だったと思います。つづいてもう2枚。

伊33潜の望遠鏡に花束を捧げ供養

吉村 呼吸をしないんで、苦しくなったでしょうね。

白石 そうです、2枚撮ったら、もう苦しくなって……。息をせんでも臭いがやっぱり少々しますわね。興奮と恐怖とでありましたよ、それは……。それでまた呼吸をするために、甲板へ上がったわけです。そして、また深呼吸して、甲板に置いてあったフラッシュの球をつかんで、ランニングシャツの内側へ入れて……。

吉村 いくつぐらい球を入れたんですか。

白石 2つ入れたんです。それで5個になるわけです。はじめに3個、その時に2個ですから……。1球は使っていなかったんですが、予備として持っていたわけです。そして、また兵員室へもどって撮りました。今度は露出を5.6か8ぐらいにして。

吉村 懐中電灯で室内を照らしながら写したんですか。

白石 そうです。懐中電灯は単一の電池三本入りのもので、それを腋の下や股にはさんだりして……。

吉村 結局、合計何枚撮ったんですか。

白石 6枚撮ったんです。3回目に入った時は、ロングで撮りました。冷静でいたつもりでしたが、真っ暗な階段を降りる途中、絞りが動いて開放に近くなり、ネガが真っ黒になっていたものも1枚ありました。その撮影中のことですが、蚕棚みたいなベッドに寝ている水兵の手が、通路にだらりと出ていて、それが撮影するのにひどくじゃまなんですよ。

吉村 眼の前に垂れているんですね。

白石 カメラの前にふさがるように垂れているんです。ファインダーをのぞくと、その手が近くにあるので仁王さんの手みたいに大きくみえましてね。それを入れたまま写すと、その手が白く画面にひろがってしまう。だから、ぼく、それを手で無意識に押しのけたんです。そうしたらその手が、肘の所からポーンと飛ぶんですよ。折れました。ちぎれたんですよ。

※注:吉村氏はこの証言を元に「総員起シ」(文春文庫『総員起シ』所収)を執筆した。