懐中電灯の光が照らした部屋に見えたもの
吉村 たしかに危険ですね。もし、爆発でもしたら作業員も記者たちもふっ飛びますね。
白石 そうなんです。それに、艦内には悪性ガスがたちこめているから入ると死ぬ、と言うんですよ。さらに作業員が、「どうなっているかわからんから待ってくれ。中には悪いガスがいっぱい入ってるんだ。ガソリン・コンプレッサーで換気するから待て。そうしないとあぶない。なにがどうなるやらわからないから、ともかく待て」と言うんですよ。それで私は、「フラッシュはたかん。それから呼吸もとめて入りゃいいんだろう」と言いましてね、作業員の制止を振り切って……。カメラはですね、潜水艦の甲板に置いて、懐中電灯だけ持ち、深呼吸を3~4回大きくして、ハッチの中に入って階段をおりたんです。
吉村 錆びていたですか、階段など……。
白石 きれいでした、浸水していないんですから……。
吉村 そうですか。
白石 きれいなんですよ。もし、水につかっていた所でしたら、海草なんかがあって階段も滑りますわね。でも、そんなことはなく階段をおり、通路をつたわって奥へずーっと入り、兵員室の入口にたどりついたんです。そこで、部屋の中を懐中電灯で、ぼく、見たんですよ。早速、撮影の手順のことを考えましてね。距離をどれぐらいにするか、撮影できる角度を45度と見て……。距離は、まあ一応3メートルのところに焦点を合わせたらよかろう。それで、距離は3メートルと頭へ入れた。それからフラッシュをたくとして室内の反射も考え、絞りは8あるいは11ぐらいだな、と思ったんです。そんなことを、懐中電灯で室内の情景を見まわしながら考えたんですがすぐに息苦しくなってきましたので、急いで甲板に駈け上がりましたよ。
吉村 その部屋の中に、何か見えたんですか、懐中電灯の光に……。
白石 全部、死体です。