パリで困るのがトイレ。日本なら、駅には必ずあるし、コンビニもある。ところが、パリにはない。かつては街に有料トイレがあって入口におばちゃんが座っていたものだが、いつの間にか消えてしまった。カフェに入ってコーヒーでも頼むしかない。

 大きなデモがあると、コース周辺の路地には明らかに犬のものとは違う液体の跡がいたるところに残り、「音楽の日」など街を挙げてのイベントの翌朝のメトロのホームではアンモニア臭がただよう。

 それなのに、オリンピックをめがけて大量の観光客が来たら?

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スタッド・ド・フランス前庭のトイレ

何十年も続く「パリのトイレ問題」

 パリの歩道にはかつて緑色の鉄製の小用トイレがあった。「ヴェスパジアン」というのが正式名称だが、真ん中に太い柱があって2人が対面するように、そこに向かって立つ。その背中を覆うように半円形の鉄板があることからカタツムリに似ているということで、「エスカルゴ」と呼ばれた。臭くて不衛生なので、撤去され、いまでは14区のサンテ刑務所の横に一つだけ残っている。もう遺跡のようなものであまり使う気にはなれない。

 これにかわって1981年からキャビン型のトイレができた。これが、「サニゼット」である。エスカルゴは外側が半円形の鉄板で囲ってはいるが、「サニゼット」は電動式の扉がついた完全密閉の個室である。

サニゼットの個室の中

 ストリートファニチャや野外広告の大手JCDecauxが公共役務の民間委託方式で受託・設置し、1フラン(当時30円程度)の有料であった。昔からパリの公衆便所は有料であったのでそういう発想になったのだろう。ただ当時のカフェのカウンター立ち飲みコーヒーも同じぐらいの値段だった(ちなみに、いまも大きなターミナル駅には有料トイレがあるが、1ユーロでコーヒー代より少し安いだけ)。それに、1回終わると便器ごと洗浄される。前の人が出たと思っても洗浄・消毒に時間がかかり、自動ドアもゆっくりなので、ずいぶんイライラさせられたものだ。また、故障しているものも多かった。