90歳を迎えても主演映画『九十歳。何がめでたい』が公開されるなど、女優として活躍する草笛光子さん。1933年生まれの草笛さんは、その子供時代を、戦争の真っ只中で過ごす。いまや数少なくなった戦争を知る者として、最新刊『きれいに生きましょうね 90歳のお茶飲み話』で、戦争への思いを、歯に衣着せず語っている。(全3回の1回目/#2#3を読む)
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誰がこの子に、こんな思いをさせたのか

 私はいま、憤っています。そして、可哀想で可哀想で涙が止まりません。この写真は、何度見てもダメ。「焼き場に立つ少年」という写真です。小学校中学年くらいの坊主頭の男の子が、死んだ弟を背中におぶって、火葬場で順番を待っている写真。昭和20年、原爆が投下されたあとの長崎で、アメリカの従軍カメラマンが撮影したそうです。

©時事通信

 その写真が、またテレビに映っていました。見るのは辛い。けれども、目を背けてはいけない。

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 汚れた裸足で、不動の姿勢でまっすぐ前を向いて、歯を食いしばって口をへの字に結んでいます。いっそ、涙を流してくれていたほうがいい。我慢している顔が、なおさら辛いです。

 こんなに心を揺さぶられる写真があるでしょうか。戦争は絶対にダメだと、如実に語っています。誰がこの子に、こんな思いをさせたのよ。なぜこんな年の子が、火葬場に並んでいるのか。お父さんは、お母さんはどうしたのだろう。戦争のあと、どうやって生きたのか。

 この男の子が誰なのか、多くの人が探しました。撮られたのが長崎のどこで、足元に写っている電線は何の電線か。探したけれど、見つからないそうです。終戦の年に十歳だったとすれば、いま85歳ぐらい。どこかで生きていらっしゃるなら、私もお会いしてみたい。でも名乗り出ると、心の傷が開いてしまうのかもしれませんね。

 私も昭和8年生まれですから、戦争を体験しています。家のあった横浜に父だけ残して、祖母と母、長女の私、弟、二人の妹とで、縁故疎開しました。群馬県の高崎、そこからさらに富岡へ。