歯に衣着せないで、言うだけのことを言って消えて行こう

 私は、旅行ジャーナリストの兼高かおるさんとお友達でした。昭和34年から31年間も放送された『兼高かおる世界の旅』(TBS系)は、まだ海外旅行が自由にできなかった頃の日本人に、世界を教えてくれるテレビ番組でした。5歳年上の彼女とは、夜中によく長電話をしたものです。

 彼女は外国をよく知っているから、私は質問ばかりします。「どうして日本は自立できないの?」「外国に頼らないと食べていけないのよ」最後は政治の話や世界の問題を語って、「あら、もう二時間しゃべっちゃったね」。けれども一昨年(平成31年)、彼女は亡くなってしまいました。

 だからいま、言いたいことを言える友達がいなくて寂しいの。『週刊文春』の編集部から連絡があったとき、「えッ、私、何か悪いことしたかしら?」と身構えましたよ。よくお聞きしたら連載だというのですが、どういう態度で何をお話しすればいいのか。兼高かおるさんと夜中の電話で話してたようなことを、言いたいように言っちゃえばいいのかなと考えて、お引き受けしました。

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©文藝春秋

 この年になって私、自分を規制するタガが外れました。いい顔をしたいとか、カッコよく見せなきゃとか、「世間のことを何も勉強してないな」と言われたら恥ずかしいとか、そういうタガが外れたの。もう、誰に何と思われてもかまいません。偉そうなことは言えないけれど、87歳には87歳の言い分や言い方ってものがあります。ボケてますが、それを書いてみます。

 もともと私は、後ろを振り向くのが嫌いです。首が痛くなりますから。でも最近は、語り部としてインタビューを頼まれる機会も増えました。令和2年で芸能生活70周年を迎えましたから、ご縁のあった映画監督や役者さんの思い出や、身の回りのことなども、お話ししていきたいと思います。

 飾らないこと。それがいまの私にとって、きれいに生きること。女優人生も私の人生も、あともう少しで終わりでしょうから、歯に衣着せないで、言うだけのことを言って消えて行こうと思っています。世間知らずの私ですが、どうか笑ってお付き合いください。
 

きれいに生きましょうね 90歳のお茶飲み話

草笛 光子

文藝春秋

2024年5月28日 発売