メダリストたちへの報奨金3億ウォンが宙に浮いた状態に

 それでも韓国射撃がメダル量産の“孝子種目”になりえたのは、韓国10大財閥のひとつであるハンファ・グループの後ろ盾があったからでもある。

 ハンファの創始者キム・スンヨン会長は射撃マニアとしても有名で、2001年にグループの百貨店部門傘下としてハンファ・ギャラリア射撃団を創設するだけではなく、2002年からは大韓射撃連盟の会長職となり、2008年からはその社名を冠した全国大会も開くなど、物心両面で韓国射撃界を支えてきた。その投資額は毎年10億ウォンを下らなかったと言われているほどだ。

 ただ、そのハンファも2023年11月に射撃界から撤退。それまで大韓射撃連盟の会長職にあったハンファ・ギャラリア射撃団出身者が退任してしまい、20年間で総額200億ウォンにもなっていたハンファからの資金援助が中断した。

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 財政的に困窮する状況を打破しようと、今年7月にはソウル近郊の龍仁(ヨンイン)市で総合病院を営む人物が射撃連盟の新会長に就任したが、あろうことかパリ五輪開催期間中に会長が院長を務める病院の賃金未払いが100件以上も発覚し、就任からわずか1か月で辞任。連盟は今回のパリ五輪メダリストたちに合計3億1500万ウォンの報奨金を約束しているが、その支給時期については宙に浮いた状態だという。

キム・イェジ選手のインスタグラムより

キム・イェジ選手が記者会見の途中で失神

 それだけに連盟上層部のドタバタ劇が、「パリ五輪で盛り上がった射撃界に水を差す行為だ」と心配する声もあるが、前述したメダリストたちは各種メディアに引っ張りだこだ。

 その過熱人気と過密スケジュールのせいで、キム・イェジは所属先での凱旋記者会見(8月9日)の途中で失神し、救急車で搬送されるハプニングも起きている。だがすでに韓国の人気トークバラエティ番組『ユ・クイズON THE BLOCK』への出演も決まっているという。

 いずれにしても“美しすぎるママさん狙撃手”から競技歴4年の“女子高生スナイパー”まで、多様なタレントが世間に見つかり盛り上がった韓国射撃界。

 その勢いを維持するためにも、キム・イェジに惚れ込んだイーロン・マスク氏が空位になっている大口スポンサーないしは連盟会長職に名乗りを上げてくれることを、関係者たちはひそかに期待しているかもしれない。