26歳で結婚と出産、射撃をやめようと思ったことも…
当時26歳。キム・イェジはこのときに結婚と出産をし、選手生活を閉じることも考えたという。大会期間中に出演した韓国のラジオ局CBSのインタビューで彼女は言っている。
「人生は長く、他のことを始めるとしてもまだ遅くないという思いもあって、20代はいろいろとさまよいました。国内の大会に出てもどこか空しかった。そんな折に結婚と出産もあったので、射撃をやめようと思った時期もありました」
そんな彼女にふたたびピストルを握らせたのは、“オンマ(=韓国語で母のこと)”としてのプライドだったという。
「娘が大きくなったとき、恥ずかしくないオンマでありたいと思った。もっと上を目指そう、目標を持とうと覚悟を改め、そこから狂ったように練習しました」
実際、母になってからの彼女の躍進は目覚ましい。大韓射撃連盟の記録によると、2019年以前は団体戦のシルバーコレクターだったが、2021年頃からは団体戦はもちろん、個人戦でも優勝。
2024年になるとアジア選手権など国際大会でも躍進し、5月には前述したISSF射撃ワールドカップで25mピストル世界新記録を達成。そして今回のパリ五輪で女子10mエアピストル銀メダルに輝いた。
「実家に帰って苦労をかけた父と母にメダルを見せたい。娘の首にもかけてメダルの重さも感じてほしい」
帰国直後の記者会見でそう語ったキム・イェジ。孝行娘であり頼れる母になった彼女は自分を一躍有名人にしてくれた恩人への感謝も忘れなかった。
「イーロン・マスクさんがたくさんの人々に射撃を広めてくださったようで、感謝しています。足りない部分もあったはずですが、たくさん祝ってくれてむしろ私が感謝したい。ありがとうございます」
韓国勢が活躍した射撃種目
ユーモラスでありながら謙虚さも滲むこの言葉で彼女の好感度はますます高まるばかりだが、注目すべきはこのキム・イェジだけではなく、そのほかの射撃種目でも韓国勢の躍進が目立ったことだろう。
例えば女子10mエアピストルで金メダルに輝いたのはオ・イェジンだ。今年の春に高校を卒業したばかりで、世界ランキングも30位台ということもあって大韓射撃連盟さえもメダル候補に挙げなかった19歳だが、決勝では先輩キム・イェジを下すだけではなく、五輪新記録となる243.2点をマークして金メダルを手にした。