“劇場で映画を観てもらう価値”そのものも高めたい

――本作の宣伝活動からは、「劇場で観てほしい」という制作のこだわりと共に、劇場という存在そのものに対するチームの思い入れも強く感じられます。

小池 プロデューサーの松井(俊之)さんも映画一筋のプロデューサーですし、この作品に限らず、映画館で観てもらうという体験の大切さについては、当初からずっとチームの話題に上っていました。コロナ禍を機にサブスクリプションが成熟した一方、劇場で映画を観てもらうという体験の価値をどう最大限に高めるか。このテーマは、「映画業界の復興」とか大上段に構えた目線ではなかったものの、自ずと映画業界全体が抱える課題と向き合う行為に繋がったのかもしれません。

――やはり井上監督ご自身も、劇場という存在に強い執着なり愛情を持たれているかたなのでしょうか?

ADVERTISEMENT

小池 『THE FIRST SLAM DUNK』は、あくまで「劇場で観ていただくために作った作品」なのだから、「劇場でかかることこそがあるべき姿」という率直な考えでした。

 この考え方は、本作の宣伝についても全く同じです。宣伝にあたっても「この宣伝用映像はここでかけるために作ったもの」、もしくは、「この宣伝画像はこの使われ方を想定して作ったものじゃない」という会話はよくしていました。宣伝の立場からすれば、つい「流用」をしたくなる時もありますが、本作では、監督ともこういった話を交わしながら、丁寧に進めてきました。時には、たとえ手間がかかっても「そのためのものを新たにちゃんと作ればいい」ということにもなるんですね。

 今年2月にリリースされたDVD/Blu-rayには、井上監督が自ら劇中のスターティングメンバーについて語ったインタビュー映像が入っているのですが、この映像は、作品自体の認知が行き渡っていない国や、細かく取材対応ができないようなヨーロッパの国々でのプロモーション用素材として撮ったものでした。日本でも公開しても良いような素晴らしいインタビューでしたが、それ用に撮影したものではなかったため、いまだに日本のPRでは公開していません。

――本作は2022年の公開前、物語についての前情報もほとんど解禁されず、関係者向け試写会も行われませんでしたが、何故だったのでしょうか?

小池 それは極めてシンプルな理由からでした。

©︎石川啓次/文藝春秋

◆◆◆

 なぜ事前情報を明かすことをしなかったのか……。#3「この映画はサプライズプレゼントでした」映画『スラムダンク』が事前情報を明かさずに公開した井上雄彦監督の“強い思い”へ続く