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「おい」と声を掛けたら、逃げた後輩芸人

――放火されたのが7月1日だから、暑くて大変だったんじゃないですか。

矢沢 地獄でしたよ。クーラーはないし、電気も通ってなくて扇風機も回せないから、汗でビショビショですよ。風呂場も天井が抜けちゃって、床がグチャグチャに汚れているうえにガレキだらけで。ガスはダメだったけど、水道は通ってたので、ガレキを踏まないようにサンダルを履いてシャワーを浴びてましたね。

 で、自治体のほうで緊急避難先として団地を用意してくれて。7月11日から住んでいいですよってことで、その日に家の解体工事も始めるようにしていたんです。で、11日に団地に移ったんですけど、解体の様子が気になって実家に行って、解体業者がいるなか、2階に上がって自分の部屋を見てたんです。

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 そうしたら、家の前で誰かが解体業者と話してるのが聞こえてきて。ひょっとして解体の音がうるさいとか文句を言われてんのかなと思って、2階の窓からチラッと覗いたら、後輩の芸人がいたんですよ。

 

――衝撃が走りますよね。

矢沢 2階で見た瞬間、心臓が止まりそうになって。で、向こうに見つかったらマズイなと思って、パッと隠れたんですよ。「僕の姿を見られたら逃げられる」とか「証拠の写真を撮らなきゃ」とか、テンパりながらもバーッといろいろ考えが巡ったけど、「ハッ、ここで捕まえちゃえばいいのか」と悟って。すぐ下に降りて「おい」って声を掛けたら、逃げたんですよ。

 その後輩って、体が細くてヒョロヒョロしてるし、常にパンパンに荷物が詰まったリュックを背負ってヨロヨロしてたから、まともに走れてないんです。だから、逃げ切れるわけがなくて、僕が追いかけたら早々と逃げるのをあきらめて。

――その後輩は、どういった方なんですか。

矢沢 簡単に言うと、嘘をつけないタイプ。スベった先輩芸人に「スベってましたね」とか平然と言っちゃって、メチャクチャ怒られたり、殴られたりするようなヤツで。場の空気を読んだり、お世辞を言ったり、人の様子を窺うといったことがまったくできなくて、それが原因でトラブルを起こしまくっていたんですよ。

 ただ、吉本に入ってたくらいだから、面白いし、そういうヤツなんで芸風もぶっ飛んでいて。僕は彼を気に入って可愛がってたんですけど、吉本を辞めて、放火の2、3年前に失踪しちゃって、そのまま連絡がつかなくなっていたんですよ。