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「売春を承知していた」といえるのか

 さらに、例えば#2で触れた「伏木丸事件」が発覚した直後の1890(明治23)年4月13日付鎮西日報には「海外密航者の数」という記事が載っている。

密航者数を報じた1890年4月13日付の鎮西日報

 長崎県梅香崎警察署と同署出島分署による同年1月1日から4月10日までの海外密航の人員は梅香崎署が男20人、女49人。出島分署が男12人、女44人の計125人。件数でいえば梅香崎署8件、出島分署3件の計11件だった。3カ月余でのこの数字をごく少数といえるかどうか。それに森崎和江『からゆきさん』には12歳の少女も売られたことが出てくるし、もっと幼い子もいたはずだ。それで「売春を承知していた」といえるのだろうか。事実の解明は今後の研究に委ねるしかない。

森崎和江『からゆきさん』(朝日文庫)

「廃娼令」からも1世紀余り。「からゆき」は遠い存在になったが、その根底に広がっていた貧困と女性に対する差別、冷遇はなくなったといえるのだろうか。 

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【参考文献】
▽森崎和江『からゆきさん』(朝日新聞社、1976年)
▽山崎朋子『サンダカン八番娼館 底辺女性史序章』(筑摩書房、1972年)
▽伊東忠太建築文献編纂会編『伊東忠太建築文献第5巻』(龍吟社、1936―1937年)
▽吉川利治編『近現代史のなかの日本と東南アジア』(東京書籍、1992年)
▽加藤久勝『甲板に立ちて』(海文堂書店、1926年)
▽金一勉『日本女性哀史 遊女・女郎・からゆき・慰安婦の系譜』(現代史出版会、1980年)
▽村岡伊平治『村岡伊平治自伝』(南方社、1960年)
▽村上信彦『明治女性史下巻』(理論社、1972年)
▽北野典夫『天草海外発展史 下』(葦書房、1985年)
▽山田秀蔵『ビルマ讀(読)本』(寶雲社、1942年)
▽矢野暢『「南進」の系譜』(中公新書、1975年)
▽藤田敏郎『海外在勤四半世紀の回顧』(教文館、1931年)
▽南洋及日本人社編『南洋の五十年』(南洋及日本人社、1937年)
▽山室軍平『社会廓清論』(警醒社書店、1914年)
▽後藤乾一『日本の南進と大東亜共栄圏』(めこん、2022年)
▽坪谷善四郎『最近の南洋』(博文館、1917年)
▽西村竹四郎『在南三十五年』(安久社、1936年)
▽倉橋正直『従軍慰安婦と公娼制度』(共栄書房、2010年)
▽『ドキュメント日本人第5(棄民)』(学芸書林、1969年)
▽木村健『近代日本の移民と国家・地域社会』(御茶ノ水書房、2021年)