「Y子ちゃん! しっかり!」
みんなは無言で立ち上がった。ずっと同じ格好で座り込んでいたのだから体の節々も痛いだろうに、ほとんど声も出ない。そして無表情であった。重い足どりで登り出した。
M短大のNさんがフラフラして自力では歩けない。仲間が両側から抱えて登っている。靴下の上にビニール袋をはいただけのMさんは、ビニールが滑って何度もころんでいる。そのたびに心配そうに仲間が支えている。
Nさんがとうとう倒れてしまった。
「Y子ちゃん。しっかり」
「Y子ちゃんダメー」
「しっかりしてY子ちゃん」
「Y子ちゃん」
緊迫した声が、雨の山中に響き渡る。
少しは雨よけになる木の下に運び込んで、4人で手足胴体をマッサージする。顔は蒼白である。脈はなかなか捉えられないほどに弱々しい。頬をたたいたり、呼んだりしながらマッサージは続けられた。
他のメンバーは、とにかくできるだけたくさんの枝葉を集める作業に入った。下山できても木の枝を大量に折った咎(とが)はまぬがれないな、と思いながらもたくさんの枝を折った。雨は容赦なく降っており、目を開けていられないほどに濡れながら、みんなは黙々と枝を折り続けた。ナイフもナタも軍手さえなく、手がかじかんだり、木のはだが刺さって痛いと思っても作業をやめることはできない。体は少しずつ温まってきた。
少し太めの枝がいる。できれば径10センチは欲しいところだが、そうそううまく落ちてはいない。それでも山中を探し歩き、見つけてはずるずる引きずって運ぶ。葉の付いた枝はだいぶ集められたが、細木が足りない。だがNさんの容態が思わしくない。時折、「Y子ちゃん! しっかり!」「Y子ちゃん! ダメー!」と緊迫した声が響いてくる。一刻も早く小屋を作らねばならない。