名前を呼びながら懸命のマッサージ
小屋といっても、ハイマツに毛の生えたようなものを作ろうというのだ。時間さえあったら、そして十分な用具と十分な材料があったら、しっかりした小屋が作れるだろうが、なにしろすべてない。折って集めたトウヒとシラビソの枝だけである。
適当な立ち木に細木を立てかけたり、斜面と窪地を利用して細木を立てたり渡したりして骨組みを作り、その上に折って集めた枝葉を載せる。横の隙間も、細木を適当な間隔で立てて枝葉で埋める。わりあい雨風はしのげる。
小さな小屋が三つできた。最初にできたところにNさんを運び込む。急いで作ったうえに高さが十分でなかったため、座ってはいられない。不幸中の幸いというか、寝ころがらなければ入っていられないために、彼女をあお向けに寝かせ、リーダーのFさんとサブリーダーのDさんが同じように寝ころんでもぐり込み、両側から彼女を温めてやることができた。マッサージも続けられていた。少しでも元気な仲間は、小屋の外から雨に濡れながら彼女の足をマッサージしている。「Y子ちゃん元気イ」と声をかけると「元気ィ」と弱々しい返事がある。
さらに枝葉を集め隙間につめる。傘も使って、屋根にしたり壁にしたりする。雨は相変わらず降っている。
突然「Y子ちゃん! ダメー!」「Y子ちゃん! いやー!」「Y子ちゃん! ダメー! 向こうから入ってマッサージして!」と悲痛な声がした。他大学の人たちも駆けつけて来る。そして互いに顔を見合わせながら心配して立っていた。
「Y子ちゃん! Y子ちゃん! しっかり!」
「Y子ちゃん! Y子ちゃん!」
名前を呼びながらの懸命なマッサージが続けられた。マッサージしかする方法がない。リーダーのFさんたちの涙ぐましいマッサージの甲斐あってNさんは一命をとりとめた。
M短大の女の子たちはあと2人ほど軽いケイレンを起こしだした。そのたびに、隣同士で名前を呼びながらのマッサージが繰り返された。マッサージしか術がないのだ。小屋番は血の気が失せるようだった。